動揺(ポルナレフ)

私はジョースターさんの伝言を伝えるためにポルナレフの部屋に赴いた。ノックするとすぐにポルナレフが出てきた。

「明日のことなんだけど、っ」

私の目の前に肌色が広がる。どうやらシャワーを浴びたあとらしい。

「入れよ」
「……うん」

動揺を隠すために返事を返すだけで精一杯だった。フランス人なら家で上半身裸は普通なのかもしれない。だが日本人の私にとっては見慣れないもので心臓に悪い。

「なんか飲むか?」
「……じゃあ水で」

ポルナレフは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し私に投げてよこす。

「ありがとう。それで明日のことなんだけど、7時に1階で朝食で、8時にホテル出発って言ってたよ」
「そうか、わざわざありがとな。ところでよ、さっきから気になってたんだが、なんで俺を見ないんだ?」

それはあなたが上半身裸だからです。

「そんなこと」
「あるだろ、なんかお前が嫌がることしたか?」

ポルナレフはソファーに腰掛けている私に近付いてくる。後退りしようにも、ソファーの背凭れに深く身体を沈めるだけだった。ますます近くなる距離に私は俯く。ポルナレフは私の頭の両脇に手を置く。いよいよ逃げ場がなくなった。

「 なあ、」

ポルナレフが呟く。その間にも私は風呂上がりの石鹸の匂いや顔の両脇に置かれている逞しい腕、目の前にある均整のとれた上半身に目眩を感じていた。心臓が異様に五月蝿い。ポルナレフに鼓動が聞こえるのではないかと焦り、ますます鼓動が早くなる。きっと今私の顔は真っ赤だ。すると痺れを切らしたポルナレフが私の顎を大きな手で掬う。

「見ないで、」

私はポルナレフの手首を掴み、上を向かせようとしている手を押さえた。

「なんでだよ」
「恥ずかしいの!裸見慣れてないから!」
「……なんだよ、そうならそうと早く言えよな〜名前に嫌われたのかと思ったぜ」
「違う」

もう理解してもらえただろうとポルナレフの手首から力を抜く。だがぐい、と顔があげられて蒼い瞳と目が合った。

「本当に顔真っ赤だな、……かわいいぜ」
「……からかわないでよ」
「からかってないぜ〜じゃあ証拠を見せてやるよ」

だんだんポルナレフの顔が近付いてくる。あまりに恥ずかしくて目を固く瞑る。しばらくして頬にやわらかい感触が触れた。

bkm