寂しい(露伴)

露伴の家に通い続けて2週間が過ぎた。しかし露伴と私が会話することはない。露伴は読みきりの漫画の締め切り、私は学校の期末テストの勉強で忙しい。そのため私が露伴の御飯を作り、帰るという日々が続いていた。御飯を作っていたのは露伴が好きだからで、今の私にはそれくらいのことしか出来ない。それでも力になれれば、そう思いいつも帰りがけに露伴の家に寄っては御飯を作っていた。
本当は、露伴と話したいし、抱きつきたい。でも、仕事の邪魔をするわけにはいかない。そのうち落ち着いたらまた話せるしそれまでは我慢しよう、そう心に決めて今日もいつも通り家を出ていく……はずだった。居間から玄関に向かう途中、私は異変に気づいた。玄関が見当たらないのだ。いくら露伴の家が広いとはいえ、何回も足を踏み入れたことのある場所だ。しかし居間に戻って何度やり直しても、玄関には行き着かない。何がなんだか訳がわからない。しかも玄関のあるはずだった場所は露伴の部屋につながっているのだ。いっそ窓から出ていこうかとも考えたが玄関がないため、靴もない。流石に裸足では躊躇われる。しばらく2階や1階を歩き回ったが、ことごとく家の間取りが変わってしまっている。どうしよう、これじゃあ家に帰れない。途方に暮れていると、露伴の仕事場のドアが開いた。







ドアを開けると、名前が廊下に座り込んでいた。この時間にまだ居るなんて珍しい。

「まだ居たんだな」

この時僕は名前を咎めたつもりはなかった。名前が僕の家に居てくれるのは嬉しい。最近お互いに忙しかったから、ゆっくり話でもしながら夕飯を食べたい、そう考えていた。だが、名前はそうは捉えなかったらしい。

「ごめん、っ」

名前の頬に涙が伝っていた。名前は慌てて涙を拭い、俯いた。

「邪魔してごめん、でも家に帰れないの」

家に帰れない?親と喧嘩したのだろうかと思ったが、名前は一人暮らしだ。

「家の鍵をなくしたのか?」

訊ねると名前は首を横に振った。

「じゃあ、どうして……」
「玄関がないの……」

玄関がない?どういうことだ?辺りを見回して異変に気づいた。家の間取りが変わっている。居間から続くこの廊下は、玄関に繋がっているはずだ。しかし、玄関は、ない。スタンド攻撃をされているのか?だがこんなことをしても意味がない。考えを巡らせて、ある仮説に辿り着いた。もし目の前の彼女がスタンド使いだとしたら?彼女のスタンドが勝手に暴走しているとしたら?全て辻褄が合う。

「今日は泊まっていけ」
「でもっ」
「ちょうど仕事が一段落したところだから気にするな」

涙目の名前を促して居間に連れていった。食事を終え、彼女が風呂を使っている間に承太郎さんに電話をした。そこでスタンドが暴走することがあるということがわかった。では何故彼女のスタンドが暴走したのだろう。玄関がなくなっていたというのが引っ掛かる。

もしかして、彼女は家に帰りたくなかったのだろうか。ここ最近ずっと顔を合わせていなかった。お互いに仕方がないと割り切っていたつもりだったが、名前はそうではなかったのだろうか。それに名前は僕より年下だ。僕に合わせて我慢させてしまっていたのかもしれない。その押し込めていた気持ちがこんな形で現れてしまったのではないか、と露伴は考えた。

ガチャリと居間のドアが開き、風呂上がりの名前が出てきた。名前は気まずそうにソファーの端に腰掛ける。こうやって遠慮するところを見て、ますます露伴の仮説は確信に変わった。

「名前、こっちに座れ」

名前はおずおずと僕の近くに寄ってくる。

「そこじゃない。僕の膝の上だ」

名前は余り抵抗もなく膝の上に向かい合わせで座った。前はあんなに恥ずかしがって顔を赤らめていたのに、だ。そんなに寂しい思いをさせてしまったのだろうか。

「名前、君は人のことを考えて我慢しすぎだ。君はあまり負の感情を顔にだすほうじゃない。これは人間関係では良いことかもしれないが、君自信の気持ちはどうなる?僕は君より年上だし、…………彼氏なんだから、もっと顔にだしてもいいんだ」
「……寂しかった……会いたかったけど、邪魔したく、なくてっ」

肩口が名前の涙で濡れる。思わず、名前を抱く手に力が籠った。

「察することができなくて、悪かった。僕も名前とこうしたかった」

そう言って名前の唇にキスをした。

「僕もシャワー浴びてくるよ、そしたら今日は一緒に寝よう」

彼女は嬉しそうに笑った。








次の日、目が覚めたら、家の間取りはいつも通りに戻っていた。








bkm