学校帰りに露伴先生の家によるのが最近の私の日課だ。いつものようにチャイムを鳴らすと少し不機嫌そうな顔でドアを開ける。そして私の顔を見るとその表情が和らぐ。私はこの瞬間が好きだ。露伴先生が私のことを特別だと認識してくれているようで嬉しくなる。
「何でにやついているんだ」
表情に表れていたようで露伴先生は怪訝な顔をした。
「何でもないです」
「……入れよ」
「おじゃまします」
いつものように家に通される。玄関で靴を脱いでいると何かが頭に触れた。
「わっ!」
それは露伴先生の手だった。
「びっくりした……どうしたんですか? 」
「髪、下ろしたんだな」
「はい、今日は髪結うのが面倒だったので」
「そうか」
そう言うと珍しそうに私の髪をまじまじと見ている。
「変ですか?」
「いや……邪魔じゃないのか?」
「まあ、少し邪魔ですね」
「……結ってやるよ」
私は居間のソファーに座り、露伴先生に背中を向ける。
「あ、私今日髪止め忘れました」
「わかったから動くな」
「うっ」
髪を軽く引っ張られて前を向かされる。露伴先生の手が私の頭を撫でるように髪を1ヵ所にまとめる。するとどこからか髪止めを持ってきてそれで髪を結った。
「ほら、できたぞ」
鏡を渡されて確認すると、綺麗にまとまっていた。漫画家だから手先が器用なのかな。後ろのほうも見ようと鏡をずらすと露伴先生に奪われた。
「別に変じゃないならそんなに見る必要ないだろ」
不思議に思いながらも、露伴先生とお茶を飲んでいる間に忘れてしまった。
***
家に帰るとお母さんが晩ごはんを作っていた。
「そのシュシュ可愛いわね。今日買ってきたの?」
晩ごはんの手伝いをしているとお母さんが言った。
露伴先生とのやりとりを思い出し、洗面所に向かう。鏡に横顔を映すと、私の髪は白いシュシュで結ばれていた。