「吉影さん。これ作ったんですけど食べますか?」
名前が持ってきた皿にはお菓子が乗っていた。
「スコーンか。名前が作ったのか?」
「はい、口に合うかどうかわからないですけど……」
「ありがとう」
皿を受け取ろうと手を伸ばすと名前は皿を放さなかった。その代わりにスコーンにクリームを乗せると私に差し出した。名前が食べさせてくれるらしい。名前の顔を見ると頬が赤く染まっている。
「口、開けてください」
「ああ、」
言われた通りに口を開ける。名前が僕の口にスコーンを運ぶ。柔らかい甘味が口の中に広がる。
「どうですか?」
「美味しいよ」
名前が顔を綻ばせた。
「よかったです。もう少し甘いのがよければ生クリームありますよ」
「もらおうかな」
そう言うとボールに手を伸ばした名前の動きが止まる。
名前はボールに手を通すと生クリームの付いた手のまま僕のほうに向き直った。
「吉影さん」
さっきよりも顔を赤くしながら私の口に手を運んだ。
名前の手はお菓子作りのためかいつもとは違う甘い香りがした。僕は生クリームの付いた手を舐める。スコーンも美味しいがこれはこれで好きだ。
何よりも名前が自分の意思でしてくれたことが嬉しい。
口から手を放すと少し居心地悪そうに俯く名前を思わず抱きしめた。