「いたっ!」
思わず声をあげるとさっきまで本を読んでいた吉良さんが台所にやってくる。
「切ったのか」
「はい……」
ぷくりと膨らんだ血を見て吉良さんは口に含んだ。
「吉良さん、何してっ」
「消毒だ」
嘘をつくな。消毒でそんな恍惚とした表情の人間を見たことがない。普段から私の手を見て舐めたいと言っている人の言葉なんぞ信用ならない。怪我に託つけて手を舐めたいだけじゃあないか。
「もう、大丈夫ですから」
「いいや、心配だ。」
そう言って私の指の舐め続ける。吉良さんの舌が別の指も舐め始めた。もう怪我関係ないだろ。
「お腹空いたのでそろそろ夕食作りに戻りたいんですが」
「それじゃあ君は座って待っているといい。続きは私が作ろう。」
思いもよらない言葉に私は目を丸くする。少し見直した。ただの変態ではなかったのだ、と。
「さっきのお礼だよ」
「…………」
前言撤回だ。少しでも見直した自分に後悔した。