面影(吉良)

※吉良が高校生・夢主が小学生








僕が高校生でお盆の時のことだ。そこには家によく訪ねてくる親戚から、お盆のときくらいにしか顔を会わせない遠い親戚までが集まった。ほとんど顔を会わせない親戚の中に、美しい手を持った女がいた。

女、と言っても彼女はまだ小学生だ。彼女は名前という。しかし小学生にしては少し発達が早く、身長が平均より高く手もすらりとしており、子供特有の柔かさというものがなく、私好みだった。

親戚の集まりは子供にとってはつまらないもので名前はつまらなそうに縁側のふちに腰掛けて足をぶらぶらさせたり、庭の蝶を追いかけたりと行動は子供を思わせた。

名前の退屈そうな様子を見かねた親戚の誰かが僕に名前と遊んでやるように言った。
名前は嬉しそうに顔を輝かせて僕の手を握った。僕は感情を表に出さないようにそっと名前の手を握り返し、近くの山へ散歩に出掛けた。

散歩していると、綺麗な小川を見つけ名前は私の手から離れて駆け出した。彼女は小川に夢中で、魚を見つけては手を伸ばして掴もうとし、失敗して頬を膨らませている。
特にすることもない僕は近くの木の下に座って名前が遠くに行かないように見守っていた。

***

不意に身体が重くなったように感じた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。名前のことを思い出し一気に覚醒した。

目を開けると僕の膝の上に名前が座っていた。身体に重さを感じたのは名前だったのだ。名前は小川で遊んで濡れた手で僕の両頬を覆った。

「つめたい?」

名前は楽しそうに微笑んでいる。手を頬から離した名前の手を見ると水が滴っている。つう、と水が手を流れている様が扇情的だった。
ごくり、と喉が鳴る。
思わず名前の手に舌を這わせる。やってしまった。どう言い訳をしようか、考えた。

「おみずがのみたいの?」
「……っ、ああ。少し喉が渇いたんだ」

思わぬ助け船に便乗する。名前は小川に走っていくと小さな手に精一杯水を掬って僕のところに戻ってきた。

「どうぞ」

そう言って手を差し出す。僕は躊躇いなく水を飲んだ。名前は再び小川に向かおうとするところを手を掴んで止める。名前はきょとんとした顔でこちらを見ている。僕は名前の手の水を1滴も残らないように丹念に名前の手を舐めた。名前は力を抜いて僕が手を舐めるのをじっと見つめていた。

「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
「そろそろ帰ろうか」
「うん!」

僕達は何事もなかったように手をつないで、親戚たちがいる家に帰った。

***

僕はそんな夏休みのことを時々ふと思い出す。
あの夏から10年後、町で名前を見つけた。あの時は殺せなかったが、今なら誰も見ていない。
手を期待して近付いた。しかしあの時の美しい手の面影はすっかりなくなっていた。

bkm