家に帰ると名前が泣いていた。尋ねても無理矢理笑顔をつくり、何でもないと言われて私の中で何かが切れた。
泣いているのに何でもない訳がない。その涙を流させている人物を問いただしてやりたくなった。名前が嫌がり話すだろうと思い、手を口元へ運んだが、名前は抵抗しなかった。そのことが更に私を苛つかせた。
泣かせているやつのことなんか考えていないで私を見てほしい。
名前の表情でこんなにも感情的になっている自分がいることに気づいた。
***
吉良さんをあんなに怒らせてしまった。とにかく謝ろう。
居間に行くと、吉良さんがソファーに腰掛けている。
「吉良さん、さっきはすみませんでした」
「いや、私が悪かったんだ」
「……」
「君を傷付けてばかりだな」
「え?」
「いや、なんでもない」
なんか言葉を濁された気がする。
***
次の日、急遽委員会の用事ができ、すっかり遅くなってしまった。吉良さんに連絡していなかったなあ。申し訳ないと思いながら家に帰ると家の電気が付いていない。吉良さんも今日は忙しいのだろうか?鍵を取り出し開けようとすると後ろから何者かに抱きつかれた。
突然のことに驚き、身体を強張らせるが嗅ぎ慣れた匂いだとわかり緊張を解いた。しかし別の意味で緊張してきた。
「吉良さん?どうしたんですか?」
「……心配した」
吉良さんの言葉にどきりとする。吉良さんから少し汗の香りがする。それに通勤鞄を持っていない。ということは探してくれてたのだろうか。
「すみません、連絡すればよかったですね」
「……」
「吉良さん?」
「名前、もう君を手として見れない」
「え?」
目の前が暗くなるような気がした。
「名前が好きだ。散々君を傷付けたり、泣かせたりしてから言えることではないかもしれない。でも、今日君がなかなか帰ってこなくて気が気じゃあなかった。どこにも行ってほしくない」
「吉良さん……私も好きです」
私は吉良さんの方を向いた。
「本当に?」
「はい」
「……今まですまなかった」
「いいえ」
「これからは大切にする」
そう言うと吉良さんは私を優しく抱き寄せ、私も吉良さんの背中に手を回した。
「おかえり」