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思わず吉良さんから逃げてしまった。でも本当に手を舐められたのが嫌なんじゃなくて恥ずかしかったからだ。

私は机に置かれたブックカバーを眺める。嬉しい。私の手にしか興味がないと思っていたけど少しは私のことも見てくれるようになったのかなと思った。

***

学校帰り、たまたま吉良さんを見つけた。その隣にはスーツを来た女の人が並んで歩いている。やっぱり吉良さんはモテるんだな。確信したと同時に胸がもやもやする。

二人を見ていたくなくて私は早歩きで家に帰った。夕飯の準備をしていてもさっきのことが頭から離れない。考えないようにしようとするほど、鮮明によみがえってくる。

「っ……」

ぽたり、と流しに涙が零れた。吉良さんのことをこんなに好きだったのだと改めて思った。

「名前?」

名前を呼ばれて反射的に振り向くと吉良さんが立っていた。

「どうしたんだ?っ、」

泣き顔を見られた。すぐに手の甲で涙を拭い笑顔をつくる。

「何でもないですよ」
「……泣いていたのにか?」
「ええ、吉良さんが気にすることではないです」

そう言うと、吉良さんは私の身体を抱きかかえ吉良さんの部屋に連れて行かれた。身体を畳に降ろされると吉良さんが馬乗りになって肩を押さえつける。吉良さんは怒っている。今までこんな顔をしているのを見たことがない。私が逃げようとして見つかった時さえこんな顔をしていなかった。

「何があったんだ?」
「……」
「言わないならこうするぞ」

吉良さんが私の右手をとり、口元へ持っていく。私は抵抗しなかった。そうやって私の手に集中してくれたらその時だけは私のことを考えてくれるだろうか。

「なんで抵抗しないんだ!!」

吉良さんはそう言い残し、部屋から出ていった。

bkm