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名前が私と目を合わせなくなった気がする。あの日以来どこか気まずそうな雰囲気だ。
やはり手を借りたのはまずかったのだろうか。しばらく我慢をしていたせいか抑えられなくなってしまった。彼女は自分から差し出したが、本当は嫌だったのかもしれない。

「今日は委員会があるので少し遅くなります」

朝食を食べているとき、名前が言った。

「何の委員会だ?」
「?図書委員会です」
「本が好きなのか?」
「はい」
「……そうか」

短く会話を交わし、名前は学校へ向かった。私は名前のことをほとんど知らない。今まではそれでいいと思っていたし興味がなかった。だが最近もっと彼女のことを知りたいと思うようになった。

***

仕事帰りに文房具を買いに雑貨屋に立ち寄った。店内を見て回り、目的のボールペンを手にとる。レジに向かう途中でブックカバーが目に入った。
そういえば名前は本が好きだったな。ブックカバーを手にとって眺める。普段世話になっているから何かプレゼントしようと思った。
結局、ボールペンとブックカバーを購入し家へ帰った。

まだ名前は家に帰っていなかった。私は彼女の部屋の机にそっとブックカバーを置き、晩ごはんの仕度に取りかかる。

***

名前が帰宅し、制服を着替えてリビングに来た。

「あの、ブックカバーありがとうございます。この前見たときに欲しいと思ってたんです」
「そうか」

気に入ったようで良かった。

「何もしてないのに貰ってよかったんですか?」
「そんなことはないよ。家事をやってくれるお礼だ」
「ありがとうございます」

そう言うと名前は微笑んだ。

「……ところで」

私は気になっていたことを切り出した。

「昨日はすまなかった」
「え?」
「手を舐めたことだ。嫌だっただろう」
「……いえ」
「じゃあ何故私の顔を見ないんだ?」
「それは……とにかく嫌じゃないですから!」

そう言うと名前は早足で自分の部屋へ向かって行った。やはり傷付けてしまっただろうか。

bkm