夜、ふと目が覚めてトイレに向かったときだった。
吉良さんの部屋のドアが少し開いていて灯りが漏れている。こんな時間まで何をしているんだろう。こっそりと隙間から覗くと、吉良さんは机に向かって頭を抱えている。
「吉良さん……?」
思わず声に出してしまい吉良さんが私の方を向いた。戸が大きく開き吉良さんが顔を覗かせる。
「どうかしたのかい?」
「あ……えーと、吉良さんが頭を抱えていたので、思わず……」
「そうか、……何でもないよ」
吉良さんを見ると私の顔ではないどこかを見ている。視線を辿ると私の手だった。
「明日も学校だろう。早く寝たほうがいい」
「吉良さん、」
私は吉良さんの頬を両手で包んだ。
「っ!」
「どうぞ」
吉良さんが戸惑った表情をする。
「要らないですか?」
「……」
「私はいいですよ」
そう言うと吉良さんは私の手を引き、畳に座らせた。吉良さんは私の前に座り、向かい合うかたちになる。手の甲に唇をおとしたかと思うと、私の指を舐めはじめた。
この前までと違って嫌悪感や恐怖は感じなかった。その代わりに恥ずかしさがこみ上げてくる。指を舐め終えたかと思うと今度は口に含んだ。
「っ……」
考えないようにしようと思っても手に注意がいってしまう。恥ずかしい。
ちゅ、と音がして口から離された。
「手、洗いに行こうか」
穏やかな声で促され、私達は洗面所へ向かった。
吉良さんが私の手を丁寧に洗う。私は前にある鏡越しに吉良さんの姿をぼんやりと眺めた。鏡に映る伏し目がちな吉良さんを見ながら優しく手に触れてくる感触に鼓動が早くなるのを感じた。
再び吉良さんの部屋に戻って来た。ハンドクリームを引き出しから取り出し丁寧に塗っていく。
「終わったよ。ありがとう」
「……いえ、おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋の戸を閉めて脱力する。恥ずかしい。何であんなことを言ったんだろう。