「ちょっと出掛けるぞ」
「え?」
終業式が終わり、露伴先生の家に寄るとそう言われて着いた先は南の島だった。ちょっと出掛けるっていうレベルじゃあない。
「この別荘どうしたんですか?」
「編集部が借りたんだ。次の読み切りのネタになるだろうってさ」
「私も来てよかったんですか?」
「それは気にしなくていい」
「そうですか……」
正直今帰されても困る。飛行機のチケットもないし。それに着替えだって……。
「先生、私着替えないです!」
「ここにあるぞ」
どこから用意したのかわからないが、一通り揃っている。しかも私好みだ。
「わあ……」
「水着もあるぞ」
「えっ」
渡されたのは普通の水着だった。やたらと露出度の高いものじゃなくてよかった。
「泳いでこよ」
「おい、待て」
海に歩いて行こうとすると、露伴先生に背中にある水着の紐を引っ張られた。
「ちょっ、脱げるから!」
慌てて水着を押さえる。文句のひとつくらい言ってやろうとすると不意に背中に冷たい液体をつけられた。
「っ!」
「日焼けするぞ。まったく、そのまま海に入るつもりだったのか?」
「……」
先生はため息を吐きながら私の背中に日焼け止めを塗っていく。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとうございます」
「僕にも塗ってくれないか?」
「……」
「今失礼なこと考えてるだろ」
「いいえ?」
露伴先生も泳ぐんだ。てっきりビーチパラソルの下で涼んでるのかと思った。
「終わりました」
「ほら行くぞ」
私の手を引き、珍しく積極的だなと思っていた矢先、顔に海水をかけられた。
「今の顔面白かったな」
そう言って露伴先生はにやにやしている。許さん。
「食らえ!」
「っ!」
私は足で水を露伴先生に向かって蹴りあげた。露伴先生は全身に水をかぶりずぶ濡れになった。
「名前〜」
先生の髪の毛が重力に従って毛先からは水が滴っている。
「貞子……」
ぼそりと呟くと露伴先生は髪の毛の間から私を睨んでいる。
「先生、恐いです」
「名前がやったんだろう」
そう言ってお返しとばかりに大量の水をかけてくる。私は逃げる間もなく全身に水をかぶった。
「貞子」
露伴先生が呟くとお互いに顔を見合わせて笑った。