※微裏?
私はなんであんなことをしたのか自分でもよくわからなかった。今までされたことを思えば放置して逃げればよかったのかもしれない。手当てする以外にもいろいろ方法があったはずだ。
それほど私はあの男を心の底では恐れているのだろうか。
***
家に帰ると吉良さんの方が先に帰っていた。
「先に帰ったからご飯を作っておいたよ」
「ありがとうございます」
いつものように無言で夕食を食べる。そして吉良さんが食器を洗っている間に私はシャワーを浴びる。シャワーを浴びながら吉良さんが手を求めて来なくなった理由を考える。私の手に興味がなくなった、とか。興味がなくなったら、どうなるんだろう。そこまで考えて冷や汗が流れる。考えたくはないが口封じに殺される、なんてこともあり得る。
それは嫌だ。殺されたくない。この気持ちが私の行動を後押しした。
風呂から上がり、私は真っ先に吉良さんのいるリビングに向かった。
「吉良さん、私の手を自由に使ってください」
そう言うと吉良さんが困惑している。自分でもおかしいと思う。この前までは泣くほど嫌だったのに自分からお願いしているなんて。
「……名前、どうしたんだ」
「私の手はもう要らないんですか?何でもするので殺さないでください…この前身体を洗ったときに逆らってすみませんでした。もう2度と逆らいません。っだから、私を……殺さ、ない、で」
私は泣きながら吉良さんのズボンのベルトに手をかけた。
***
驚いた。名前がまさか思い詰めてこんな行動に走るとは思っていなかった。どうやら最近私が手を触らないからもう殺されると思っていたようだ。
名前の手を掴んで止めさせる。
「もういいんだ」
「それは、私が……要らないって、こと、です、
か?」
「そうじゃない」
「……」
「私にもわからない。……君に嫌われたくないのかもしれない」
彼女は何も答えなかった。
「とにかく今日はいいんだ。休みなさい」
「……はい」
名前は静かにリビングを出ていった。