星

「名前出掛けるぞ」

晩ごはんを食べ終えるとアヴドゥルさんが言った。

「え?はい」

慌ててアヴドゥルさんの後を追い、私は助手席に座る。ここがすっかり私の定位置になった。

「今度はどこに行くんですか?」
「秘密だ」

前にもこんなことがあったような気がする。私とアヴドゥルさんの車はだんだんと町を離れ、街灯のない場所に着いた。

「着いたぞ」

私とアヴドゥルさんが車を降りると、空には一面に星空が広がっていた。

「わぁ……!」
「寒いだろう。これを使うといい」

久しぶりの星空に感動している私に差し出されたのは毛布だった。なんだか旅のころを思い出す。

「ありがとうございます」

砂漠の夜は冷える。アヴドゥルさんを見ると毛布を巻いていない。

「アヴドゥルさん、毛布はもう一枚ないんですか?」
「どうやら忘れたらしい」
「一緒に使いましょう」

私はアヴドゥルさんを毛布に招き入れた。その時アヴドゥルさんは私を見てにやりと笑った。

「すまないな」
「アヴドゥルさんが忘れ物なんて珍しいですね」
「……ああ、うっかりしていた」
「本当ですか?」

アヴドゥルさんは答えない。確信犯だ。

「私が毛布を貸さなかったらどうするんですか」
「それはありえない。名前は優しいからな」
「……褒めたってなにもでませんよ」
「もう少しこっちに来るといい。隙間があると寒いだろう」

腰を引き寄せられた。いろいろはぐらかされたような気がする。
でもこうやってアヴドゥルさんとくっつくのは幸せだ。

「星、綺麗ですね」
「そうだな」
「前にもこんなことありましたね」
「ああ……こうしてまた一緒に星を見れるとは思わなかった」
「私もです」

旅のとき眠れなくてアヴドゥルさんと2人で火を囲んで話をしたことを思い出した。あの時は遠かった距離がいつのまにか埋まっている。アヴドゥルさんが私の隣にいるなんてあの頃の私にはちっとも想像がつかないことだ。

「アヴドゥルさん、」

精一杯背伸びをして、少し冷えた唇に口付ける。
私が積極的にアヴドゥルさんにキスをしているということも。

bkm