「そういえば、アヴドゥルさんてお酒飲まないんですね」
夕食を食べている時に名前がさりげなく言った。
「そうだな。来客用があることはあるが……飲みたいか?」
「いえ、そういうわけではなくて何となく思ったので言ってみただけです」
「飲んでもいいぞ。持ってくるから少し待っててくれ」
「……ありがとうございます」
台所に置いてある果実酒をとってテーブルにつく。
「意外だったな」
「そんなにしょっちゅう飲んでるわけじゃないですからね」
酒飲みのような言い訳をしながらグラスを口に運ぶ。酔ったところをみたいと言ったら怒られるだろうか。
「美味しいですね」
「友人からのおすすめだ。口に合ったようでよかったよ」
名前は美味しそうに口に運ぶ。酒好きだがあまり強いわけでもないようで、すぐに目元が赤くなった。
瞼を重そうにテーブルに突っ伏してグラスの縁を指先でなぞる。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!ほら」
そう言うといきなり立ち上がって私の方に歩いて来たかと思うとがばりと私に抱きついた。
「!名前……」
「アヴドゥルさん〜」
名前は嬉しそうな声で私の声を呼ぶ。普段自分から抱きついてくることはないため、嬉しくなる。
「大好きです」
ぎゅう、と名前の腕に手が籠る。
「本当は……素面でこういうことができたらいいんですけど……。恥ずかしくて出来ないです」
独り言のように言った言葉に柄にもなくどきりとする。そっと抱き締め返して頭を撫でる。
「甘えていいぞ」
「んん」
嬉しそうに肩に頭を押し付けて甘える。いつも以上に甘える名前を抱きかかえてソファーに座らせた。すると私の足を跨いで向かい合わせに座り、抱きつく。幸せそうな顔だ。見ているこちらも癒される。
「アヴドゥルさん」
「どうし……、っ」
名前が私の頬を両手で包み、口付けた。唇を離すと嬉しそうに微笑む。思わず強く抱き締めると、にこにこしながら苦しいです、と言った。
しばらくすると名前の頭がゆらゆらと不安定に揺れだす。
「寝てもいいぞ」
「ん〜……寝るまで、抱き締めてほし……」
あっさりと眠りに落ちた名前の額にそっと口付けた。
***
「ん……」
「起きたか」
「おはようございます」
「昨日は可愛かったな」
「昨日……?あ、」
ようやく思い出したようで顔が赤く染まる。
「こら、布団に潜るな」
「……恥ずかしいです」
「甘える姿が」
「言わないでください!……もうお酒飲まない」
「それは残念だな。先に下に降りてるぞ」
「……はい」
今日もいい1日になりそうだ。