体温

アヴドゥルさんにアラビア語を教えてもらうようになり、絵本くらいならなんとか読めるようになった。

私とアヴドゥルさんは一緒に読書をするのが習慣になっていた。
向かいのソファーに座っているアヴドゥルさんをちらりと見る。

アヴドゥルさんは真剣な顔をして本を読んでいる。アヴドゥルさんが私の視線に気付き、目が合う。私は思わず本で顔を隠した。顔を再び本から出すとアヴドゥルさんはこっちを見ていた。

「どうした?」
「何でもないです!」
「本を読んでいてわからないことでもあったか?別に遠慮しなくても、」
「そうじゃないです……アヴドゥルさんを見てました」
「光栄だな」
「……」

自分で言って恥ずかしくなり、私は身体を反対側に倒して本を読み始めた。後ろでアヴドゥルさんが笑う声がした。

少しして本のページに影ができた。後ろを振り返るとアヴドゥルさんが立っている。私はアヴドゥルさんに横抱きにされたかと思うと、アヴドゥルさんがソファーに座りその上に私が乗せられた。
逃げようと思ってもいつの間にか腰をホールドされていた。

「読んでやろう」

構ってほしいのがばればれだった。アヴドゥルさん が絵本を読みだす。耳の近くで聞こえるアヴドゥルさんの声に初めはどきどきしていたが、やがて心地よくなってきた。アヴドゥルさんの声を聞きながら温かい体温に身を委ねた。

bkm