アヴドゥルさんにはいつもお世話になりっぱなしだ。私が何かできることはないだろうか。
働いて給料も貰ったし、何かアヴドゥルさんにプレゼントをしたい。何がいいかな。
「ぼうっとしながら料理を作るのは危ないぞ」
考えているとアヴドゥルさんが後ろから声をかけてくる。
「あ、」
「悩み事か?」
「……」
アヴドゥルさんに欲しいものを直接聞いたほうがいいかな、と考えていると後ろから手が伸びてきてコンロの火を止める。すると後ろから抱えられ、ソファーに座るアヴドゥルさんの上に向かい合わせで座らされる。
「この前言ったはすだが?」
もちろんこの前の事は忘れていない。"遠慮しなくていい"という言葉はとても私の支えになっている。でも悩んでいるわけではない。
「あの、」
「ん?」
「アヴドゥルさんは、欲しいものとかありませんか?いつもお世話になりっぱなしなので、何かお返しがしたくて」
「……じゃあ、」
さっきまでの真剣な表情から悪戯めいた表情に変わる。私はまずいことを言い出したかな。
「名前から私にキスしたことはなかったな」
「えと、そう、ですね……」
「じゃあ私にしてくれ」
「っ!」
私が考えていたお返しの何倍も難易度が高い。だんだん顔が熱くなっていくのがわかる。肩を押して膝から降りようとすると腰を押さえられ、降りられない。
「名前がするまでこのままだ」
「そんな……」
「名前が言い出したことだ。守ってもらうぞ」
こうなると何を言っても無駄だろう。
「じゃあ、目を瞑っていてください」
「……わかった」
私はアヴドゥルさんの肩に手を乗せ、軽く口に触れた。
「もう終わりか?」
「終わりです!!」
「はは、顔が真っ赤だな。……嬉しいよ」
アヴドゥルさんが私の前髪をかき分けて額にキスをした。本当にアヴドゥルさんにはもらってばかりだ。