「名前、ふらついていないか?」
「大丈夫ですよ、少し疲れてるだけなので寝れば治ります」
名前の頬は上気しており、目はとろんとしている。額に手を当てると熱い。
「!熱がある。運ぶぞ」
「え?」
名前を横抱きにして寝室に運ぶ。額だけでなく彼女に触れているところから熱さが伝わってくる。ベッドに寝かせると名前はぼんやりと私を見上げている。
「今、濡らしたタオル持ってくるからな」
部屋を出ていこうとすると名前が私の腕をつかんだ。心細いのだろう。
「すぐに戻ってくる。そうしたらずっと隣にいる」
そう言うと安心したように名前の手から力が抜けた。
***
名前の額に濡らしたタオルを置く。すると名前は気持ち良さそうに目を細めた。
「名前、何かほしいものはあるか?」
名前はゆっくりと私のほうを向くと私の手に自分の手を重ねた。
「手……繋いでいて欲しいです」
「わかった」
私は名前の手を両手で握り返した。名前は安心したようにふにゃりと微笑んだ。
しばらくすると名前から寝息が聞こえてきた。
普段明るく振る舞ってはいたが、内心はどうだったのだろう。家族がいないこの場所は彼女にとって辛いのかもしれない。精神的に疲れて体調を崩したのではないだろうか。
お粥を作りながらそんなことを思った。
***
「名前、」
誰かに名前を呼ばれて意識が浮上する。目を開けるとアヴドゥルさんが心配そうな顔をしている。
「お粥を持ってきたのだが、食べられそうか?」
私が頷くと、アヴドゥルさんはそっと身体を起こしてくれた。
「ほら、口を開けて」
アヴドゥルさんはお粥をスプーンで掬って私に差し出す。ちょっと恥ずかしいが言う通りにして口を開けた。
「美味しいです」
「よかった。日本食は作りなれていないから心配だったんだ」
薬を飲み終えるとベッドに横になる。再び私の手を握ってくれてすごく安心した。
薬のせいかすぐに眠気が襲ってきた。
***
「んう、」
目を覚ますと怠さがすっかりなくなっていた。手はアヴドゥルさんと繋がれている。ずっと繋いでいてくれたんだ。
「具合はどうだ?……熱はないみたいだな」
「すっかり良くなりました!アヴドゥルさんのおかげです」
そう言うとアヴドゥルさんは私の頭を優しく撫でた。
「名前、私に遠慮することはないんだ」
「……私は大丈夫ですよ」
アヴドゥルさんは優しいなあ。やばい、涙目だ。顔を見られないように俯くと涙が零れた。アヴドゥルさんは何も言わずに私を抱きしめて背中をさすってくれた。
「少し、寂しくなって……熱のせいかもしれないですね。でもアヴドゥルさんがいるから、大丈夫です」
「ああ、それにみんなもいる。いつでも頼っていいんだ。誰も迷惑なんて思わないさ。3年前もそうだった」
「っ、はい……」
自分が悩んでいたことを言い当てられてしまった。でも話して心が軽くなった。