仕事帰りに名前の好きなバクラワを買って家に向かう。名前の喜ぶ顔が頭に浮かんだ。
家に帰るとしんとしている。いつも名前が玄関で出迎えてくれるはずだが、今日はいない。おかしい。リビング、洗面所、寝室を覗いたが、名前は見当たらない。
私は嫌な予感がした。名前は自分の意志でこの世界に来たわけではない。だからもし元の世界に戻るときも、きっとそうだろう。それがもし今日だとしたら……。自分の予想が外れていてほしいと願いながら残されたベランダにつながる部屋のドアを開けた。
名前が眠っている。思わず名前を抱きしめる。彼女の体温で彼女がここにいることを実感し、安心した。
今日はこれで済んだ。しかし本当に彼女がいつのまにか突然いなくなる可能性もあるのだと突きつけられた気持ちがした。
「ん、アヴドゥルさんお帰りなさい」
名前は幸せそうに笑った。名前を抱きしめる手に力が籠る。
「どうしたんですか?」
「なんでもないさ、さあ、ご飯にしよう」
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バクラワ:パイにシロップをかけたお菓子