「出ないな」
チャイムを押した花京院が言う。
「まだ寝てるんじゃあねぇか?おっ、鍵開いてるぜ。俺が起こしてくるかな」
「行儀が悪いぞポルナレフ」
「いいんだよ。俺たちはアヴドゥルに呼ばれたんだぜ?ちょっくら行ってくる」
「やれやれだぜ」
俺はアヴドゥルの寝室に行った。
「おい、アヴドゥル。入るぞ」
寝室の扉を開けるとアヴドゥルはいなかった。その代わりに名前がぐっすり眠っている。
「ポルナレフ」
後ろを振り替えるとアヴドゥルが立っている。
「悪いな、チャイムが鳴ったのは聞こえていたのだが火を使っていて手が離せなかったんだ。名前、ポルナレフ達が遊びに来たぞ」
「ん……」
名前は目を擦りながら起き上がる。名前がいるベッドには枕がふたつ置かれている。
「それじゃあリビングにいるからな」
アヴドゥルと俺は寝室を後にした。
***
「おはようございます」
リビングにはアヴドゥルさん、花京院、承太郎、ポルナレフがいた。
「名前……」
「花京院、久しぶりだね」
「名前は元気そうだな。よかった」
承太郎は黙って私の頭をぐしゃりと撫でる。
「わっ!承太郎?」
帽子の影で表情は見えないが口元は弧を描いている。つられて私も笑顔になった。
「本当はジョースターさんとイギーも来れればよかったんだがよ、ジョースターさんは忙しいらしくて都合がつかなかったんだ。イギーはアメリカで元気に暮らしてるぜ」
「そう、よかった」
***
夕方になって私とアヴドゥルさんはみんなの夕食を作っていた。リビングからはポルナレフの笑い声が聞こえてくる。
「名前、これちょっと味見してくれないか?」
「はい。ん、美味しいです」
「じゃあこれを持っていってくれ」
「はい」
私は皿を持っていく。
「おっ、旨そう」
「名前が作ったのか?」
「これはアヴドゥルさんが作ったの」
「"これは"ということはお前も作ったのか?」
「そうだよ」
「大丈夫か?」
「失礼だなあ。3年も経てば少しは上手くなるよ」
「フッ、そうか」
「名前、これも頼む」
「はい!」
***
名前はぱたぱたと台所に行った。
「幸せそうだな」
花京院がぽつりと呟いた。
「名前も、アヴドゥルさんも」
「ああ」
本当にふたりは幸せそうだと思う。どちらも一度は好きな人を目の前で亡くしているのだ。こうやって再び会えるとは想像していなかっただろう。付き合うようになり幸せもひとしおだと思う。
***
「じゃあ、そろそろ帰るかな」
「泊まるところはあるのか?」
「僕らはホテルに泊まります。しばらくはエジプトにいるのでまた遊びに来ます」
そう言って花京院達は帰っていった。
「楽しかったですね」
「毎日のように言っているな」
「だって本当に楽しいですから」
「……あっちの世界はどうだ?」
今までなんとなく避けていた話題を口にする。彼女は少し考えて答えた。
「楽しいですよ、辛いこともありますが」
「あっちの世界に戻りたいか?」
「……どちらとも言えないです。でも、私は今を楽しみたいです。せっかくアヴドゥルさんに会えたから」
「そうか」
前向きな名前らしい返答だと思った。