彼女の気持ち

「ん、」

目を開けると見慣れない天井が目に入る。そういえばアヴドゥルさんの家にいるんだった。昨日はソファーに座っていたところまでしか記憶にない。私は居間に下りていく。

「すみません!眠ってしまったみたいで…」
「おはよう、名前」
「名前……」
「アヴドゥルさん、とポルナレフ?!」
「本当に名前なのか?」

私が頷くとポルナレフは強く抱き締めた。

「ポルナレフ、苦しい」
「っああ、悪い……本当に名前なんだな。3年前より美人になった」
「ポルナレフはこっちの世界でも相変わらずだね」
「はは、名前、お腹が空いただろう。朝食ができているよ」
「すみません、居候なのに…」
「気にしてないさ」

私は朝食を食べるとポルナレフと出掛けることにした。アヴドゥルさんは用事があるらしい。

***

私はポルナレフと街中を歩き回っていた。

「そこのカフェで休憩するか?」
「うん」

私たちは近くのカフェに入った。

「それでよ、名前はアヴドゥルのことが好きなのか?」
「な、なんでそんなこと聞くの?!」
「やっぱり好きなんだな」
「……うん。好きだよ」
「そうか、告白はしたのか?」
「してない。……したいけど」
「なんでしねぇんだ?」
「……」

もちろんアヴドゥルさんに私の気持ちを伝えたい。でも、もし気持ちが受け入れられなかったらと思うと躊躇ってしまう。これからアヴドゥルさんの家に居候するのに気まずくなるのは嫌だ。

「まあ深くは聞かねェけど。今の名前はなんでもできるぜ、生きているからな」
「そう、だね」

ポルナレフの言う通りだ。
今の私なら、アヴドゥルさんに思いを伝えることができる。告白できずに離ればなれになってしまった私の世界とは違って。思い残したことが出来るチャンスなのだ。

「まあ、そんなに焦る必要はないと思うぜ」

ポルナレフはそう言ったが、私は内心焦っていた。明日もこの世界にいるという保証はないのだ。

「……話を聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして。いい男だろ?」

ポルナレフの言葉に私は笑った。

***

夕方にポルナレフと帰宅し、夕食を作る。ポルナレフは私が料理できるということにひどく驚いていた。

「そろそろ帰るかな」
「泊まっていかないのか?」
「ああ、ホテルはとってあるんだ。また来るぜ」

帰り際にポルナレフは私にウインクした。彼なりに気をまわしたんだろう。

「ポルナレフは相変わらずですね」
「そうだな」

賑やかなポルナレフが帰り、部屋に静寂が訪れる。

「なんか、旅をしているときみたいで楽しかったです」
「ああ」
「……っ、」
「名前?」

私の頬には涙が伝っていた。

「こうやって過ごせると思ってなかったから嬉しくて……」

アヴドゥルさんは優しく私の頭を撫で、落ち着くまで側にいてくれた。

「すみません、いきなり泣き出してしまって」
「これで冷やすといい。このままだと明日目が腫れる」

そう言ってアヴドゥルさんは濡らしたタオルを差し出してくれた。

「ありがとうございます」
「明日、どこがへ出掛けないか?」
「!はい、出掛けたいです!」
「急に元気になったな。行きたい場所はあるか?」
「アヴドゥルさんのおすすめの場所がいいです」
「そうか。じゃあ、早く寝るか」
「そうですね。ではソファー借りますね」
「名前はベッドを使いなさい」
「でも……」
「私のことは気にするな」

アヴドゥルさんに押しきられ、私は寝室を借りた。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

***

名前は眠っただろうか。寝室を薄く開けると月明かりが差し込み、ぐっすり眠っている名前が見える。よかった。
名前がいつまでこの世界に留まっていられるのかわからない。だが、この世界にいる間は幸せな日々を送ってほしい。

bkm