再会

私は承太郎とエジプトに来ていた。目的はアヴドゥルさんのお墓参りだ。これも今年で3年目になる。例年通り花を供えた。

「もう、3年になるんだね」
「ああ」
「ポルナレフも来れればよかったのにね」
「ああ」

私の好きな人がここで眠っている。私は3年前のことを後悔していた。アヴドゥルさんに思いを伝えればよかった、と。もう私たちの傍にアヴドゥルさんはいないのだ。

私は墓を眺める。すると激しい頭痛に襲われた。視界がぐにゃりと歪み立っていられずにしゃがみこんだ。

「っ、」
「具合が悪そうに見えるが大丈夫か?」

差し伸べられた手を見ると承太郎の手ではない褐色の肌。顔を上げると懐かしい顔があった。

「アヴドゥル、さん?」
「名前、なのか?」

アヴドゥルさんは目を大きく開け、私をじっと見つめている。まさか、さっき花を供えた墓の主が目の前にいるなんて。
アヴドゥルさんも同じ思いのようだ。

「名前は埋葬されたはずだ」
「アヴドゥルさんこそ、3年前に」
「私は名前に助けられたんだ。その証拠に」

アヴドゥルさんは私の後ろを指差した。振り返るとお墓がある。そのお墓には私の名前が刻まれてあった。

「嘘……」
「名前は私やポルナレフ、イギーをヴァニラ・アイスから庇って死んだんだ」
「……」

混乱している頭で今までの経緯を思い出す。
頭痛がして、しゃがみこんだら承太郎がいなくてアヴドゥルさんがいた。

「取り敢えず、私の家に来るか?」

私は黙って頷いた。

***

家に着くと、アヴドゥルさんが私に飲み物を差し出す。

「ありがとうございます」

口を付けると懐かしい味がした。

「これって……」
「好きだっただろう」

覚えていたんだ。少し嬉しくなる。

「それで、名前はどうして墓の前にいたんだ?」

私は経緯を簡単に話した。初めは信じられないという顔だったが現に私も存在していることからある程度納得したようだった。

「そうか。名前が来た世界と私のいる世界は違うんだな」

アヴドゥルさんはぽつりと言う。

「あの、アヴドゥルさんのいる世界はどうなんですか?DIOは?」
「こっちの世界のDIOは倒した」
「よかった……」

何となくアヴドゥルさんを見て予想はできていたが安心した。

「他のみんなはどうしていますか?」
「元気だ。ジョースターさんも承太郎も花京院もポルナレフも、イギーも」

この世界にはみんなが生きている。月並みな言葉かもしれないが本当によかった。

「こっちの世界ではみんなが無事でよかったです」
「みんなじゃない」
「え?」
「名前がいない」

どう答えたらいいのかわからない。何ともいえない表情をしていたのか、アヴドゥルさんが続けた。

「……ともあれまた名前に会えて嬉しい」
「私もです。アヴドゥルさんはお元気そうですね」
「ああ。名前は綺麗になったな」
「そ、そんなことないです」
「3年前も綺麗だったがな」
「……」

私は恥ずかしくなり俯いた。

「帰る家はあるのか?」
「……ないです」
「私の家に泊まっていくといい」
「すみません、お世話になります」
「大したことじゃないさ、そろそろ夕食にするか」
「あっ!私が作ります。リクエストがあったら遠慮なく言ってください」
「……作れるのか?」
「なっ、作れますよ!」
「そうか……旅をしているときは」
「そのことは言わないでください!」
「ははは、」

3年前、私はほとんど料理をしたことがなかった。だから料理を作るときに野菜の皮を厚く剥きすぎて笑われたのだ。今となっては懐かしい思い出だ。

「久しぶりに和食が食べたい」
「和食なら作り慣れているので任せてください」

***

和食を作るとアヴドゥルさんは美味しいと言って食べてくれた。料理をできるようになったかいがあったな。

「ごちそうさま」
「お粗末様でした」

アヴドゥルさんが皿洗いを申し出たため私はソファーに腰かけ、私に背中を向けて皿を洗う姿をぼんやりと眺める。3年前もこうやって後ろ姿を眺めていたなあ。アヴドゥルさんの背中は広くて大きい。

***

皿洗いを終えると名前はソファーで眠っていた。今日1日色々なことがあって疲れたのだろう。私は名前を抱きかかえ、寝室に運ぶ。

「おやすみ」

私は部屋の電気を消した。

bkm