吸血鬼(承太郎)

「何で抵抗する?」
「自分の行動を考えたらわかるだろ」
「部屋にいきなり入ってきたお前が悪い」
「吸血鬼になってるなんて予想出来ないから! 」

私は今承太郎の部屋で追い詰められている。

話は少し前に遡る。放課後一緒に宿題を承太郎の家でやることを約束し、一旦家に帰った。宿題を持って承太郎の家へ行くとホリィさんが暖かく迎えてくれた。

「後でお菓子持っていくわね」

お礼を言い承太郎の部屋へ向かう。ノックをして入ろうとする。

「今日は帰れ……」

具合が悪いのだろうか。苦しそうな声に黙っていられず襖を開ける。目に入ってきたのは壁に寄りかかり、苦しそうに呼吸をする承太郎の姿だった。

「承太郎!」

駆け寄ると彼の表情が曇る。

「帰れと言っているだろう……」
「このまま帰れる訳ないだろ。ホリィさん呼んでくる」

踵を返した時に承太郎に腕を掴まれる。

「これじゃあホリィさんを呼べないだろ」
「呼ばなくていい」

私が言い返そうとすると、身体を床に倒される。起き上がろうとしていると上に承太郎が迫っていて畳に逆戻りした。

「退けてくれないか」
「断る」
「どうしたんだよ!承太郎らしくないぞ」
「うるせぇ、血を飲ませろ」
「はあ?!どうしたんだよ」

承太郎の顔を見ると苦しそうな表情だ。半開きになった口からいつもより鋭い八重歯が顔を覗かせる。

「っ承太郎、歯が……」
「どうやら吸血鬼になっちまったらしい」


そして冒頭に戻る。

「離れてくれないか」
「それは無理な話だ」

顎を掬われ首筋に顔を埋める。首筋に暖かい息がかかり身体が強張る。暫くすると牙がズブズブと身体に入り込む感覚がする。

「じょ、たろ……」

今までに体験したことのない感覚に怖くなり承太郎の服にすがる。しかし行為が止められることはなかった。耳元で血を吸われ、身体が熱くなる。

「っ、ん、」

ようやく満たされたのか牙が抜かれる。身体がふわふわする。起き上がろうとすると身体に力が入らない。ぼんやりしていると承太郎が私の頭を膝に乗せる。頭を撫でる手の心地よさに意識を手放した。

目を覚ますと、目の前にはホリィさんがニコニコして私の顔を覗き込んでいた。弁解しようとしたが「いいのよ〜邪魔しちゃったわね」と言って嬉しそうに出ていった。承太郎はいつもの口癖を呟いた。

bkm