06

私は名前のことで悩んでいた。なぜ名前に好意を抱いてしまったのか。なぜ手だけを愛することに夢中でいられなかったのか。

考えたところでこの気持ちを押さえつけることはできない。一方で、名前に気持ちを伝えることも躊躇われた。今までの行いから名前が私のことを愛してくれるとは到底思えない。だが、名前を元の生活に戻すつもりもなかった。そんなことをすれば私と名前の繋がりはなくなってしまう。

そんなことを考えながら数日が過ぎた。私は足を捻挫してしまった。音を聞き付けた彼女が私の元に駆けつける。
私が床に座っている状況を見て、察したようだった。

「立てますか?」

足に力を入れると鈍い痛みに襲われる。私の表情を読み取ってか私の身体を支えながらリビングの椅子に腰掛けるように言った。
するとぱたぱたと走っていなくなったかと思うと、バケツに氷水をいれて戻ってきた。

「冷たいと思いますけど、これで足を冷やしますね」

そう言って彼女は私の靴下を脱がし足をバケツにつけた。

「少しの間このままでいてください」

また彼女は忙しそうにどこかへ行ってしまった。
私は彼女の気持ちがわからなかった。自分で言うのもおかしいがあんなことをして私の足の手当てをしている気が知れない。これも私へのご機嫌取りなのだろうか。

「お待たせしました」

今度はタオルとシップを片手に戻ってきた。

「足、この上に乗せてください」

床に広げたタオルの上に言われたとおりに足を乗せる。彼女は私の足をタオルでくるみ、水を拭き取った。そしてシップを足首に貼る。

「一応終わりましたけど、もし痛みが続くようであれば病院に行ったほうがいいと思います」
「…随分手際がいいな」
「前に足を捻挫して保健室にお世話になったことがあるので」

彼女が少し笑って言った。この家に来て初めての笑顔だ。はっとした彼女はそそくさとその場を立ち去ろうとした。

「名前」
「はい、」
「ありがとう」
「…いいえ」

名前が立ち去ってから、名前の手に触れられたのは久しぶりだったということに気付いた。

bkm