私が風邪をひいた日から吉良さんの様子がおかしい。今では毎日のように手に触れるのが日課だったのにここ数日は何も言ってこない。私にとっては好都合だがなんとなく気になる。
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最近名前の手に触れていない。何故かはわからないが触る気にはなれない。風邪が治り、手の血色も良くなったにもかかわらず、だ。いっそ手だけにしてしまおうかとも考えたが、自分にそんな気はなかったので止めた。
家に帰るといつもどおり名前は晩ごはんを用意してくれていた。後片付けは私が済ませ、名前はシャワーを浴びる。しばらくして名前が風呂からあがった。
「おいで」
呼ぶとびくりと肩が動き緊張した足どりで私の前に立ち、ゆっくりと手を差し出した。
相変わらず好みの手だ。しかし、触る気は起きなかった。
「今日はいい」
彼女はあからさまに安堵した顔をしている。その表情に少し苛立った。そんなに私のことが嫌いなのか。彼女の表情だけでなく、それに心を揺さぶられている自分にも苛立つ。
あの小娘一人がなんだというのか。今までだって何人もの女を手だけにしてきたというのに。私は苛立った気持ちのまま自室へと向かった。
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今日も吉良さんは手に触れなかった。名前を呼ばれたとき、ついに来たかと思ったが途中で気が変わったらしく自室へ行ってしまった。
よかったと思いながら、後でしわ寄せが来そうな予感がして怖くなる。
その次の日も吉良さんは何もしてこなかった。日に日に吉良さんに対する疑問が膨らんでいくのを感じ、勇気を出して吉良さんに聞いてみることにした。
「吉良さん」
「何かな?」
「あの、最近私の手に触れていませんけど…」
「ああ、気が向かないだけだ。君が気にすることじゃあない」
「そう、ですか」
毎日触っていたのにそんなこともあるんだろうか。もう一度尋ねようかと思ったが吉良さんを刺激することはしたくなかったので黙っていた。
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理想的な手が目の前にあるというのに、触る気が起きない。今までこんなことはなかった。自分のことがますますわからなくなってくる。
名前のことを考えているうちに自分にとって信じがたい結論に辿り着いた。それは私が彼女に嫌われたくないということだ。