屋上の扉を開けば秋から冬に移り変わった冷たい風が吹いてくる。
そろそろセーターも着用しようと改めて思いつつ、晴れてはいるが寒い空の下へと進んでいた。ばたんと階段へ反響しながら屋上の扉が閉まる。
今ので先生に気付かれてしまったかもしれない。まあ、バレたらその時に考えよう。そう思いふと前を見ると、給水塔の影から見慣れた人が手を振っていた。
ゆっくりと足音をたてながらその人のところへ向かえば、相変わらずのふわふわとゆるい笑顔で向かい入れてくれた。

空いている彼の隣に会釈をしながら座り込むと、満足気に頷いた後何事もなかったかのように、ポケットからタバコを取り出し火をつけ始めた。
カチッと安いライターの音がして白い煙がタバコからあがる。

ゆらゆらと上がる紫煙と、独特の匂い。中学生がタバコなんてとも思ったが、彼なら、千歳先輩ならなんだか違和感を感じなかった。
それはきっと見た目は同じ中学生には見えず、それでいて達観した空気を醸し出しているからだろう。
そんなことを考えていると、気付けば千歳先輩が持っているタバコは大分短くなっていて、満足したのか地面に押し付け火を消している。そして、携帯灰皿の中に吸殻を入れていた。

タバコを吸って満足したのか、のんびりと声をかけてきた先輩の話に適当に相づちをうちながら聞く。本当にたわいもない内容で、今日は寒いとか、授業はサボり?とかそんなことばかりだった。
そして、話すことがなくなったのか無言の時間が訪れた。
お互いよく喋る方でもないし、別にこの空気が悪い訳でも責められてる訳じゃないけど、なんだか居心地が悪く感じた。

「…そういえば、タバコって身体に悪いんすよ。知ってます?」
「ん、しっとおよ。だけんやめらんね」


話題として思い浮かんだのは先日授業で習ったタバコの話だ。
唐突に俺が言い出したことは予想外だったのか、ははっと軽く笑いながら言う千歳先輩。
その表情も好きだと改めて自覚した。
この人の笑顔も、サボり癖がある性格も、俺より高くて憎たらしい身長も全部纏めて好きだ、と。
らしくないとは思う。そもそもお互い男だし。
それでも好きになったんだからしょうがない。


「……じゃあ、俺が千歳先輩のこと好きなのは知っとりますか?」

ぐるぐると頭の中で考えていてぽろりと溢してしまった言葉。
言った後にしまった、と理解するのに時間がかかった。
千歳先輩も珍しく驚いたのか目を真ん丸にしたまま動きが止まっている。時間を戻せるなら数分前に戻してほしい。
せっかく生意気で、ときどき一緒にサボる後輩ぐらいまで近付けたのに、これで今までの頑張りは全部無くなったのだから。息をするのも億劫で、自己嫌悪に襲われ今すぐこの場からいなくなりたいと願っていると、ようやく動きだした千歳先輩に「そいは知らんかったね」と笑いながら言われた。
年相応に笑う先輩は可愛かった。
先ほどとは打って変わて気まずい雰囲気。自分がやってしまったこととはいえ何か取り繕わなくてはと焦る俺とは裏腹に、その気まずい雰囲気を破ったのは緩い空気を醸し出してる先輩だった。


「……光くん。じゃあ俺が今光くんとキスしとおって思っちょるの知っとお?」


今度はこっちがぽかんと驚く番だ。だって、千歳先輩が俺と?いやいや、きっとこれは俺をからかっているだけだろう。笑ってるし。
もしくは千歳先輩なりのフォローなのだろうか。だったら嫌がらせもいいところだ。振るならはっきり嫌だと言ってくれればいいのに。元来ひねくれていると言われてる性格は相変わらずで、絶対に悪ふざけだと思ってしまう。
それでも、悪ふざけだとしても千歳先輩から好きと言われるのが嫌な気がしないのはやはりユウジ先輩じゃないが人生惚れたもん負け、だからだろう。
一人悶々と考えていると突然額に暖かくて柔らかくて、だけど手入れされてないからカサカサとした唇が触れた。


「光くんはむぞらしかね、」


子供扱いするように頭を撫でられやはりさっきのはからかいだったかと悔しくてしょうがない。
きゅっと唇を噛み締める俺を後目にまたタバコに火をつける先輩。
一度吸っては、紫煙を吐き、また吸い込む。その大人ぶってる様子が気に食わなくて、タバコを持っている左手を引き寄せぶつかるようにキスをした。
きっとこのままだと子供扱いされたままだと頭の隅で思い、したこともないのに舌を入れる行為までしてみた。
くちゅっと濡れた舌が絡み合う淫猥な音と、ときどき漏れる千歳先輩の喘ぎ声に聴覚が犯されて頭の中が真っ白だ。

実際そんな経っていないが、五分にも十分にも感じられたキスをやめれば、ん、っと吐息混じりの声をだして千歳先輩が離れていく。
俺はといえばみっともないことに初めてのキスで息は上がって、顔は真っ赤で、衝動的にしてしまったとはいえ穴があったら入りたいと本気で思うくらい恥ずかしい。お互い気恥ずかしくて目を合わせられずにいると、赤い頬で苦笑気味の先輩が目を泳がしながら声をかけてきた。


「…あー…光くん?」
「……千歳先輩。とりあえずタバコやめません?身体に悪いし、キスするのに苦いし、」


( …あと、俺と付き合ってください )


ほぼ灰になっているタバコを消して、今度は頬にキスされた。満面の笑みで返事をもらうまで後少し。
二度目のキスもやっぱりタバコの味がした。


( 苦みがわからなくなるまでキスをしよう )





書きたかったことはタバコ吸う千歳とガツガツしてんだけど初恋でツンデレ(?)な光です。光もっとツンツンさせればよかった…!
相変わらず最後よくわかんない!チューさせたかっただけです。
※未成年者の喫煙は法律で禁止されてます。

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