天気は曇り時々晴れ。気温は少し肌寒いくらい。
決して、声高らかに絶好のデート日和!…とは言えなかったが、俺たちにはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。
暑すぎると俺が外に出たくないし、寒すぎると千歳が外に出たがらない。
だからきっとこれぐらいがいいのだろう。

そんなデートの途中、千歳の住むアパートに帰るときに、やつは現れた。

にゃあ、と可愛らしい鳴き声をあげ、喉をならしながら千歳の足へ頭を擦り付ける。こいつに一度会うと千歳は隣に俺がいても相手をしなくなるから厄介だ。
今日もやはり(わかってしまうのも悲しいが)、千歳の優先順位は俺ではなく、喉をならして千歳にくっついているやつの方だ。

繋がれていた手を離されてそいつの頭を撫でながら、どげんしたと?…すまんばい、今日は餌持ってなかと、と、猫に謝っている千歳は可愛い。可愛いけども、だ。
その視線は出来れば俺に向けてほしい。
そんな心の声が聞こえたのか、珍しく、本当に珍しく千歳が猫に別れの言葉を言った。

驚いている俺を気にすることなく、「またね、ねこさん」と千歳は笑って手を振っている。


「…え、もういいんか…?」


驚きすぎて、最初に出た言葉がこれだ。全くカッコ悪くて仕方がない。
それでも、これだけ言えたのが凄いと俺は思う。
それだけ珍しいからだ。
そんな千歳はといえば、俺が言っている意味が余りわかっておらず、不思議そうな顔をしている。


「や、だから、猫構うんもうええの?」


…敵に塩を送るなんて、と思ったが千歳がこんなにも早く切り上がるのだがら何かあるのかもしれない。
そう伝えれば、なんだか納得したような、未だわかっていなさそうな、よくわからない、だけど可愛い、ふにゃりとした笑顔を見せて、「今は謙也くんとデート中やけん、ねこさんより謙也くんと居ったい」と言われた。

それがもうたまらなく可愛くて愛しくて嬉しくて、ぎゅっと千歳を抱きしめた。


「?、謙也くん?」
「〜っ、千歳、メッチャかわええ…!」

身長の都合により、千歳の胸に埋まっていた頭を勢いよく上げれば、眉を下げ不思議そうに笑っている千歳がいた。
そんな千歳に、少しだけ背伸びをして触れるだけのキスをした。
ちゅっと、軽いリップ音と共に目を丸くした千歳の顔が広まる。
すぐに離れる唇にお互い顔が真っ赤だ。
(俺はきっと顔だけでなく耳までだけど)


「…ふふ」
「あー…えーっと…、…千歳がかわええからいけないんやで!そない可愛かったらキスしたくなるっちゅー話や!」


千歳のせいにするなんてカッコ悪いことこの上ない。
それでも、何か言わないと恥ずかしくて仕方がない。


「ううん、違うばい。謙也くんからのちゅうは嬉しかったけん気にしなくてよかよ。…ねこさんにちゅうしてるところ見られた思ったら恥ずかしくなっただけたい」


へにゃり、また眉が下がったまま可愛らしく千歳が笑う。
千歳の言葉に視線を下げれば相変わらず千歳の足にまとわりつく小さな猫。
その猫と目が合えば、俺はしっかり見ていたぜ!と言わんばかりに、にゃあんと鳴かれた。

『…ふっふっふっ…!残念やったなあ!今日はお前やなくて俺のが優先されるんやで!』、そう言いたいのを飲み込んで視線だけ送る。逸らしたら負け、そんな気がして猫とにらみ合いを続けていると、ふいっと猫が視線を逸らし、その場から駆け出した。


「おっしゃあ!」
「?謙也くん、急にどげんしたと?」


思わずガッツポーズをしてしまい、未だうっすらと頬が赤い千歳に不思議そうな顔をされた。
慌てて、「んん〜?なんでもないで!はよ行こうや」と言い、自然に手を繋ぎ直した。
目指すは、千歳の家だ。家に帰ったら、またキスをして一日千歳を抱きしめていよう。そう決めた日曜日。


( 最初の言葉を訂正しよう、今日は絶好のデート日和だ! )




また懲りずに後半がずるずる延びていきました。だらだらしててすみません。猫に嫉妬する謙也と、気付かない千歳。今回は謙也優先でしたが次の日はきっとねこさん優先に戻ってる気がします。
2000HIT有難う御座いました!

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