謙也と千歳が付き合い初めて一ヶ月が経った。
謙也と千歳には悪いが、正直俺はここまで続くと思っていなかった。
続いていることにも驚いたが、聞けばまだキスまでしかしていないと言うから更に驚いた。

「…ホンマに言うとんのか謙也…」
「うっさいわ…俺かて早くそれ以上のことしたいっちゅー話や!」
「本音駄々漏れやん!やったら千歳のこと押し倒してまえ!」

俺が!?などと謙也が叫んでいるが、お前がやらなきゃ誰がやんねんとは面倒なので言わなかった。
しかし謙也が我慢できるのはわかるが、千歳が我慢出来ているのが不思議でしょうがなかった。
転校して来てから千歳には必ず女関係の噂が絶えず出ていたのに、ここ一ヶ月は何も聞かない。

「なあ、ホンマに千歳とキス以上してへんの?」
「なんもしてへんで。時々その、…し、舌とか入れるくらいで…!」
「別にそこまで聞いてへんわ」

スパーンと良い音を鳴らしながら謙也の頭を叩く。痛いと抗議を受けたが無視することにした。
ちょうどそのとき無駄にデカイ身長が目に入った。きっとこのうるさい親友の迎えだろう。一組から八組まであのめんどくさがりがよく来たものだと感心してしまった。

「あ、謙也居た」

昼休みでざわざわとした教室でもはっきりと聞こえる声でやはり親友の名を呼ぶ。
謙也はと言えば非常に驚いたのか固まったままだ。一歩一歩と近付いて、俺と謙也の前に立つ千歳。
謙也しか目に入っていないのか、小さすぎて気付かないのか俺に対しては何の反応もない。千歳から見れば同じ部活仲間くらいにしか思っていないだろうからその反応に落ち込みはしない。

(落ち込みはしないが、後者だった場合は蹴りを入れるつもりだ)

「あんね謙也。今日家に泊まり来ん?」
「へ?今日?…んー今日は無理やなあ。あ、でも来週なら行けるで!」
「ほんなこつね?」
「おうホンマや!」

にこっと謙也が悪意のない無垢な笑顔で千歳に笑いかける。
千歳もその笑顔に釣られて謙也に微笑んでいた。
泊まりの予定も決まったのか、「それじゃあ後で」と言って千歳は教室から出ていった。きっと午後の授業をサボるのだろう。


「千歳んとこに泊まりやー楽しみやなー」
「まあ頑張れや」
「ん?なんやわからんけど頑張るわ!じゃあ俺教室戻んなー」

元気よく走り出した謙也の背中に再度頑張れと心の中で伝えてやった。謙也は気付いていなかったが、熱を孕んだ瞳で千歳が謙也を見つめていてその後捕食者の顔付きになったのを俺ははっきりと見ていた。きっと来週謙也は千歳に美味しくいただかれるのだろう。
泊まりを楽しみにしている親友にそれを伝えるのも無粋かと思い、見なかったことにしようと決めた。


( 狼と羊と村人 (村人ってなんやねん! ) )