あおいそら、ひとつういた 雲

ふらりと出ていった若様が、ふらりと帰ってきた。それはなんてことのない、よくあることだ。だがしかし、今回はちょっと違う。


「新入りのナマエだ」
「ナマエですっ!」


帰ってきた若様の腕に在ったそれは、きらきらと輝く夜空のような瞳が印象的な少女だった。
名前の紹介のみで、付け足すように「あぁ、コイツは普通のガキだ戦闘は出来ねぇしさせねぇ」と言った若様を見つめてみるも、それ以上は何も言う気がないらしい。若様は少女……ナマエを私に預けるように差し出しにんまりと笑った。


「おれはもう少し出てくる、コイツの世話を頼んだぞ、ベビー5」
「わ、私必要とされてる…?!わかったわ、任せて!」


頼りにされたのでは仕方がない。私はナマエを受け取り腕に抱いた。ナマエはきょとんとした後、やや不安げな声を上げ若様を見た。


「どふぃ……?」
「少しお留守番してな、できるか?」


ナマエにかける声も、頭を撫でる手つきも、普段の彼からは想像できないような優しい声で私は思わず「若様…?」と声をかけてしまった。「なんだ」と私に尋ねる若様はいつもどおりで。途端に私は気づいた。若様はこの子どもに、ナマエに……
そんなまさか、と浮かんだ考えに小さく頭を振る。考えないことにしよう。そう、ただ気に入っただけなのだろう、この愛らしい少女のことを。




若様が出かけ、しばらくは大人しく与えられた絵本を読んでいたナマエ。だが時折ちらちらと、窓の外を気にする様子が見られる。

何かあるのかと自分も目を向けてみるも、窓から見えるのは雲がまばらに浮いた真っ青な空だけだ。


「外が、どうかしたの?」


そばに寄り尋ねると、やや言いにくそうにもじもじと体を揺らしながら小さな声でナマエは答えた。


「えっと、あのね……」


どふぃ、まだかなぁって。

そう恥ずかしそうに、けれどどこか不安そうに呟いた少女に合点がいく。この子は、ナマエは、寂しいのだ。

あんな男に懐くなんて、と思わないでもないが、微笑ましいことに変わりはない。
きっとすぐ帰ってくるわ、と声をかけながらナマエを抱き上げ膝に乗せる。早く帰ってこなかったらぶん殴ってやるわ、と上司に対するには無礼すぎることを考えながら。



日が傾きかけた頃、ようやく帰ってきた若様に一番に駆け寄ったナマエの笑顔と、それに対して柔らかい表情を浮かべていた若様を見て今回は殴るのはやめておこう、と思った。きっと私も、笑顔なのだろう。

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