決意した猫

前回のあらすじ。
将来主人公にぶっ飛ばされる運命にあることに気付いてしまい絶望を知った俺。
以上。


この世界に生まれ落ちて早3年。俺は平穏を諦めないことにした。
よくよく思い出せば原作でクロ(俺)は比較的平穏に暮らしていたじゃあないか!ただし、金持ちのお嬢様の執事として、だ。この際執事なのは構わない。多少は忙しいだろうが慣れればどうということもないだろう、主人となるお嬢様はおとなしいタイプだったはずだ。

だがしかし執事になる前は海賊だったのだ。そこが大問題だ。


海賊になることを避けられればそれに越したことはないのだが、所謂「運命」という名の不可視な力には抗えないと考えた方がいいだろう。となると海賊になるということも必須だと考える。

ならばすることはひとつ。

死なないように鍛え、力をつけるのだ。主人公にも負けないように、けれど殺しもしないように。程よく主人公に必要な程度の悪役(ヒール)を演じられるように。

3歳児の身体で出来る事などたかが知れているが何もしないよりはマシだ。
しかし平穏に暮らすためには周りに怪しまれるわけにもいかない。如何に人目を盗み、且つ最大限まで身体を鍛えられるか……俺はやってやる。平和に、平穏に暮らすために!




そうして秘密裏に鍛錬しつつ、ごく普通の子どもを演じて過ごし……齢15になった。鍛錬は周りに一切悟られないように行っていたし、普段は年相応の子どもらしく、しかし大人しい性格だと思わせるよう比較的ひっそりと過ごしていたため大きな事件もなくここまで生きてこれた。15歳、というまだ子どもの域を出ない今、どうしてこれまでのように割愛せず誰とも知れない誰かにこうして報告しているのか。簡単だ、事件があったからに他ならない。


完結に言おう、両親が死んだ。
更に詳しく言うなら住んでいた町が壊滅した。別に自然災害も生物災害も起きていない。この世界では何の変哲もないよくある話……海賊に壊されただけだ。
いつものように遊びに行くと称してこっそりと町はずれの森で鍛錬をしていた。町の方で大きな音がしたため見に行けば既に手遅れだった。いくつかの家は壊され、あちらこちらでは火の手が上がり、聞こえるのは悲痛な悲鳴。自宅へ足を走らせたがそこにあったものはもはや家として機能していなくて。瓦礫の下から覗く赤や、ぼろぼろの布から両親の死を確信した。
冷たい、と思うかもしれないが大した悲しみはなく。家だった瓦礫から使えそうなものを漁り、隣町まで誰にも見つからないように駆けた。家族を失った悲しみこそないが、折角ここまで育ててもらった恩もあったのに助けてやれず申し訳なかったな、とは思う。
嘆くことが生きている者のすることではない、生きることこそが死者のためなのだ。
なんて、柄にもないことを言い訳がましく心中で思いながら今後の生計を考えるのだった。


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