猫、ねこ、クロネコ

お前ら、ワンピースって知ってるか?女性用の洋服の方じゃなくって、漫画の方。そう、麦わら帽子の少年が主人公の大海賊時代な有名なあの漫画だ。
唐突だが俺はそのワンピースの世界へ、所謂転生トリップというモノをしたらしい。
頭がおかしいと思うか?俺もそう思う。けれど悲しいことに現実なんだなこれが。

前世と言えるような記憶を持ちこの世界に生まれ落ちた俺だが、何故ここがワンピースの世界だとわかったかというと。自分の生まれた町に見たことのあるマークの海軍の駐屯所があったからだ。
生まれて数か月の俺を母親が抱いて、町内を散歩してくれたおかげでわかったことだ。そしてちらほらと耳に入ってくる「海賊」やら「レッドライン」やら「グランドライン」やらという単語。これはもう決定打となるだろう。非常に残念だが。

確かに、ワンピースの漫画は好きだった。キャラクターも世界観もストーリーも面白い。だがしかし。俺は「平和」や「平穏」というものが何よりも好きなのだ。某奇妙な冒険の手フェチ爆弾魔のように激しい「喜び」はいらない、そのかわり深い「絶望」もない、「植物の心」のような人生を…そんな「平穏な生活」こそが目標であり理想である。だというのに。

こんな世界じゃあ平穏な生活なんて難しいのではないだろうか。

思わずため息が零れる。と、零した後で慌てて周りを確認する。誰も気づいていないようだ、よかった。中身というか精神年齢がウン十歳とはいえ今の身体は生まれて間もない赤ん坊。相応の振る舞いをしなくては気味悪がられるか天才だと持て囃されるか……何にせよ平穏から更に遠のいてしまう。気をつけなくては。

この世界での両親は父は大工、母は専業主婦という極普通の一般家庭だ。だからこそ俺は目立つようなことはせず平穏に、普通に生きていくように…………ん?普通?

はたと気づく。そうだ、俺の両親は「普通」に「平穏」に暮らしているじゃないか。

つい漫画による先入観があったせいで海賊や海軍にばかり注目していたが、この世界にも「一般人」というものが当たり前だが存在しているんじゃあないか。ならばそれを目指せばいい。


なんだ、簡単じゃないか。俺は希望の光を見出した。と、思った。


「いやぁ、旦那さんにそっくりなキリッとした目つきだねぇ」
「そうでしょう?うふふ、きっと大きくなればイケメンね」


母と近所のおばさんが俺を見ながら話す声が聞こえる。母は微笑んで、俺の名を呼ぶ。この世界に生まれて数ヶ月間、何度も呼ばれ耳にした名前。ふと、その名前に、前世で聞き覚えがあったことに気付く。気付いてしまった。


「ねぇ?クロ」


初めて聞いたときは犬猫につける名前かよ、と思ってしまった。その感想はあながち間違っていなかったかもしれない。
俺が持っているのは黒髪に、良いとはいえない目つき、そしてクロという名前。





どうやら俺は、漫画の主人公たちの初期の方のボス的ポジションに成ったようです……


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