Main

Start++



がちゃ、と控えめに鳴らされた音に円城寺円はすぐに眠りから覚めた。伊達に人の気配に敏感にならざるを得ない仕事をこなしてきてはいないが故の反応だった。
この学園に来てから何の因果か仕えている神宮寺家の因縁といえる相手、聖川の人間と寝床を共にすることにもなったが、今はその彼もおらずここには円城寺しかいない。
長い休みがあっても円城寺が雇い主がいた家に帰らないのも、そもそもこの学園にいるのも神宮寺レンのためだった。
円城寺が今一人だということは、レンもまた一人なのだろう。彼の同室もまた聖川の人間で更に嫡男だった。
音を立てないようにしているのだろうが何年一緒にいると思っているのか、誰が入ってきたのかは円城寺には手に取るようにわかる。
それを見越していることも、円城寺がそれを知ってる尚声をかけないのも知っているのだろう。
レンが話しやすいように誘導するつもりはないことも、レン自身からアプローチさせようとしていることも。

「………ジョージ、…っ」

レンの手が円城寺の肩に触れた、その瞬間レン側に背を向けていた円城寺が素早い動きで腕を掴み引き寄せた。
同時に体を浮かせ、ベッドに仰向けに寝転がる状態になったレンの顔の横に手をついて開いた足に体を滑り込ませ上から見下ろす。
端からみたら組み敷いたようにしか見えないのだろう。実際その通りなのだが。

カーテンの隙間から漏れる月の微かな蒼白い光がレンの瞳をいつも以上に艶やかなものにさせる。青が群青のような、濡れた色になる。

「起きていたんだ」
「それに気づかないお前じゃないだろう」

どうかしたか。答えなどわかりきった問いではあったが円城寺はそう言った。レンは少し目を反らし、落ち着きなくさ迷ったところでまた視線をぶつけてくる。ふわ、とレンらしくない、否、円城寺は見慣れている笑顔を漏らす。子供のような安心しきった顔。この顔を、円城寺以外の前でする術をまだ見つけていないのだろう。本人が自覚していないのだから当たり前だ。
可哀想、だとは今更思わない。その顔を、円城寺にだけだとしても出来るのだから。

「夜這い、かな」
「………」
「嘘。ね、ジョージ一緒に寝てよ」

ジョージもあのうるさい同室人がいなくて寂しいだろう?という一言を添えて優雅に唇に笑みを浮かべてみせるレンは、それでも瞳は隠しきれない不安の色を宿していた。
乱暴にベッドに沈められたせいで乱れた服も、白いシーツに広がる絹のような長い髪も、そのままにレンは円城寺にすがるように手を伸ばす。

大人びた子供だった。昔から、そして今も。
強がって、泣くことすら忘れてしまっかのように。瞳がどれだけ濡れようと、そこから雫が落ちることはない。
本当は、大声を上げて泣きたいのかもしれないけれど。

伸ばされた手を、受けとることに躊躇してしまった。レンは悟い。それだけで、円城寺の心情を察してしまうほどに。

「ジョージ」

その声は、年にしては艶のある色だ。言動も、表情も、体つきも。どこも色香を漂わせるのに。隠してきた子供の心が歪に、けれどどこか陰のある色気になっているのだから厄介だ。

そう、どれだけ艶を纏っていても。どれだけ幼い、表情をしていても。

今、円城寺の前にいるのは神宮寺レンで、決して――

「違う、よ。ジョージ、オレは……」

――彼女じゃないよ。

潜めた眉が珍しい、などと考えなければ意識がもっていかれそうだった。
そんな自分を無視して、円城寺は子供にやるそれのようにレンの頭をがしがしと撫でた。

(まだまだだな、俺も。)
(こいつに、こんなこと言わせるなんて、な。)

「レン」

謝罪など、出来るはずもなかった。
乱暴に撫でられて、くつくつと無邪気に笑うレンは円城寺の呼び掛けを聞いているのかいないのか。それとも、聞かないようにしているのか。
無垢な笑顔に彼女の面影を見て、感じたのは未練や恋情などではなく、それを案じたレン自身への愛情なのだと。

「ジョージ、痛いよ…っわ」

腕に閉じ込めたのは、紛れもなく。



Berceuse
(俺が愛すべき、子供だ)




(121205)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -