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大人数の中にいても、自然と目線を引き寄せられる。色素の薄い髪と派手な顔立ち。振る舞いも、言動なにもかもが自信に満ち溢れていて、それでいてどこか上品なのは何故だろう。言葉使いも、見目に反してかなり悪い。それでも端々に見られる品のよさは、きっと良いとこの坊っちゃんなのかもしれない。
高いプライドを壊してあげようとして、魅せられたのは僕のほうだった。

ちょっとだけ、視線が下からなのに気づいて、意外に思った。彼は自分を大きく魅せるのが得意なのだろうか。誰かが言った王様の名。その持ち主は、アイスブルーの瞳に驚きを宿らせて見開いていた。縁取っていた睫毛の色も、色素が薄い。僕とは少し違う色。少しだけ似ている。でもアイスブルーは彼だけの色だ。
艶めいた髪先を撫でる。ぴくんと肩が跳ねて、息を詰めたことが雰囲気でわかる。

「あれ、抵抗しないんだ」
「…してほしいのかよ。なんだこれは」
「跡部くん、髪さらさらだね。羨ましい。僕はほら、癖毛だから」
「聞いてねーよ、つーか聞けよ」

跡部くんが抵抗しない理由はわかってる。わかっているから、こうして跡部くんに迫っていた。
壁に押し付けられて、抵抗しないのは、ただビックリしているだけだ。練習後で疲れているのもあるだろう。
もう一つは、僕が年上だからだ。敬語さえ使わないが、僕が危害を加えなければむやみやたらに乱暴なことはしないだろう。礼儀正しいところもあるんだね。これも意外だ。きっと不思議に思っているはずだ。僕が何故こんなことしているのかを。
見極めようと、探るように見つめてくる。

ずっと見ていたい。ずっと見つめられていたい。宝石のような瞳。知らず知らずお互に息がかかるほど近づいていた。

「もしかして、香水とか、つけてる?」
「はあ?練習してたんだぞ、つけてるかよ。…あー、もう、さっさと離れろシャワー浴びてえ…っ」
「いい匂いするね」
「っテメェ!」

引き寄せると、さすがに気に触ったのか突き飛ばされた。強い力で押されて離される。
鋭く睨み付けてくる様は、警戒してる猫のようだ。毛を逆立たせるかわりに、眉間にシワがよっている。

「もう、遅いよ跡部くん。抵抗するの。他の人だったら襲われちゃうよ?」
「うっせえ、俺にんなことするやつはテメーだけだ」
「そうかな、君が気づかないだけかもしれないよ」
「ふざけんな。汗くせえ奴に近づく物好きはテメーぐらいだろ。用がねえなら行くぞ」

余程シャワーを浴びたかったのか、僕に背を向けて早足で歩き出す。
どうやら、僕の発した台詞は嫌味だと受け止められたらしい。酷いなあ、いい匂いだって言ったのは本当なのに。
汗の匂いを気にしていたらしい。から、今度は風呂上がりにでも近づいてみよう。きっと、抵抗はされない。

遠くからでも君は見つけられる。派手な容姿と振る舞いで。氷のようだと思って触ってみたら、火傷をするほど熱かった。低温火傷じゃない。熱くて火が燃え移りそうなほど。アイスブルーの奥が何色か知りたくて近づいた。見つけたら、壁に押し付けていた。無意識で。そう言っても君は信じないだろう。
本当に鈍感だ、君は。
少し外に跳ねた前髪、日焼けしているにも関わらず、ピンクがかかった白い肌。ああ、そうか。また僕は魅せられたのか。

今度はね、跡部くん。
もっと早く、強く、抵抗しないと、食べちゃうかもね?



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