※現代パロ
-愛を贈りましょう-
「ね、どうするの?」
「………ん」
色鮮やかな花たちが可憐に花びらを微かに揺らしている様を見つめ続けて何分たっただろうか。
花屋の店長であるエアリスが微笑ましいと言いたげにこちらを見ているのがわかる。その視線が気になり隣にいるエアリスを見ると、エアリスもまた花のように可憐に笑った。
「クラウド、決まった?」
「…いや、どういうのを選べばいいのかわからない」
「ティナちゃんに、だよね」
「ああ」
明日は妹のティナの誕生日だ。
いつも遠慮して何も欲しいと言わないティナが、『じゃあ、花がいいな』と控えめにそれでいて満面の笑みを浮かべて言った。
彼女もまた、花のように笑う少女だった。
ティナの好きなモーグリの大きなぬいぐるみと、沢山の花をあげようと思った。
モーグリのぬいぐるみは同級生のセシルの提案だった。相談して良かったと思う。
小さい頃に親をなくして、それから色々我慢させてきてしまったし、寂しくもあっただろう。
こういうときくらい、欲しい物をあげたいし一緒にいたい。
でも、花ってこんなに沢山あったんだな。端から端まで見詰めて、一つの花に目が止まった。
「エアリス」
「決まったの?百合?」
「ああ、それを、あるだけ」
大きく花を咲かす汚れなき白い花。
優雅で可愛いらしくもありながら芯が強く、力強くとも美しい様はどこかティナを思い出させた。
「はい、承りました。リボンは何色がいいかな」
「…リボン」
「たくさんあるから、何色でも」
「じゃあ、緑で」
しゅるり、とエアリスの白い手が器用に緑色のリボンを結んでいく。
両手にモーグリのぬいぐるみを抱き抱えながらその様子を見ていたが、意外に花束は大きく持てるかちょっと心配になった。
このモーグリでさえバイクに乗るのは大変だったというのに。
移動手段を考えてなかったことに今更気付いてももう遅い。
一旦家にモーグリを置こうかとも思ったが、今の時間ではティナは学校から帰っているだろう。
『今日は早く帰るからね』とわざわざ言ったのはそれだけ楽しみだったのだろう。
それに、従兄弟のルーネスも連れてこないといけない。
どうやって運ぼうか考えていると、チリンと音がなって人が来たことを知らせた。
「こんにちは」
「あら、今日は早いね」
入ってきた銀髪の青年は、ティナと同じ学校の制服を着ていて、どこかで見た顔だなと思ったらティナと同じ学校どころか友達だったなと思い出した。
「今日の授業は午前だけだったんです。…あれ、もしかしてティナのお兄さん?」
「ああ、覚えていたかフリオニール」
すらりと出てきた名前に、意外に覚えているもんだなと思う。
「今日はティナちゃんね、誕生日なんだって。だからクラウドお兄さんがプレゼントを買いに来たの」
「ああ、だからかな」
納得したようにフリオニールは頷いて俺を見た。
「今日とても嬉しそうだったんですよ。大好きな人からプレゼントがあるって」
「…そうか」
「あら、クラウドったら照れちゃって」
モーグリの頭のボンボンがゆらゆら揺れてるのを見ながら別に、と返す。
話題を変えるようにフリオニールに話し掛けた。
「いつもあんたはここに?」
「えっと…週一回で来ます」
「敬語じゃなくてかまわない。ティナの友達だしな」
「そうですか…いや、そうか」
「花が好きなのか?」
そう問うと、何故か恥ずかしそうに視線をキョロキョロさせた。
「一番、バラが好きなんだよね」
「え、あ…でも、男が花好きなんて変かな」
「そんなことはない。花が好きな人を俺は好きだ」
照れ臭そうにフリオニールは笑った。
エアリスを見ると、彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「はい、クラウドできたよ。持てる?」
「…なんとか」
エアリスから渡された百合の花束を持てるには持てるのだが、やはりバイクには乗れないだろう。
エアリスはそのあと、一輪の白いバラをフリオニールに渡した。
「ティナちゃんにプレゼントしたら?」
「…えっ、でも、バラって…」
「大丈夫。白いから」
何が大丈夫なのかは知らないが、プレゼントがいっぱいあるほうがいいだろう。
「フリオニール、ここに刺していいよ」
「あ、じゃあ、ティナに誕生日おめでとうと言っておいてくれないか?」
「ああ、わかった」
白い百合の花束の真ん中に白いバラが美しく佇んでいる。
真っ白で彩られた花束は、ティナそのものに見えて、自然と笑顔が浮かんだ。
無理にバイクに乗っていくより、近いのだから歩いていこう。
「エアリス、フリオニール、ありがとう」「ああ」
「どういたしまして」
「バイクは後で取りに来るから、少し店の横に置いといてくれないか?」
「うん、わかった。あとでね」
二人に別れを告げた後、ぬいぐるみと花束を抱き直して店を出た。
モーグリはルーネスに持たせようと決意して、俺は歩き始めた。
(110611)