※現代パロ
-兄弟の日常-
カーテンから光が差し込みそれがピンポイントに目にあたり、それで俺は目が覚めた。
二度寝しようと思ったけど自分の長い金髪が肌に張り付いて思いのほか寝苦しく感じて体を起こす。
時計を見ると丁度6時で、これまたタイミング良くアラームがなった。
バン、と力任せに青い置き時計を叩く。
毎朝こうだからこいつは結構耐性がついているらしい。
買ってから一度も壊れていない。秒針は折れてるけど。
欠伸をしながらリビングへ行く。
まだ兄のクジャは起きていない。いつものことだけど。クジャが起きるのは7時だ。それまでに朝ごはんを作って、クジャの弁当もつくるのが俺の仕事。
顔を洗って完全に目を覚ます。
髪を結んでエプロンを付けて、テレビを付けたあと俺は冷蔵庫を開いた。
「−おはようございます、朝7時を−−…」
テレビの美人アナウンサーが7時を知らせている。
もうとっくに朝ごはんも弁当も作り終えてソファに寝転んでいた俺はクジャを起こしに腰をあげた。
「おーい、クジャー、朝だぞー」
部屋の外からノックしながら声をかける。中から音はしない。
これで起きないのはわかってる。俺最大の仕事開始だ。
息を吸い込み気合いを入れて、部屋のドアを開けた。
クジャはまだベッドに潜りこんでいる。
あちこちに鏡があるのはいつも不気味だ。夜とか結構怖い気がするんだけどな。
「クジャ、おい起きろって」
「う、…ん」
かなり乱暴に揺らす。一気に覚めてくれないと困るんだ。
この低血圧め。
そうじゃないとこっちが色んな意味で大変だ。
「いい加減に…わっ」
腕を引っ張られベッドに引きずりこまれる。またか、と思いながら天井とクジャ見る。
「おはよう…ジタン」
「…おはよう。どいてくんないか?」
「ジタンも一緒に寝よう…」
ふわふわと喋るクジャの目は開いていない。そりゃそうだ、寝ぼけてるんだから。
またか。もう一度心の中で呟いた。
俺の首もとに顔をうずくめなお起きようとしないクジャの頭に、全身全霊を込めて手刀を与えた。
「…ちょ、ジタン!!」
「なんだいクジャ」
「起こしかたにも色々…」
「だって普通のじゃ時間かかるし」
無事クジャの手から逃れた俺は、ベッドの上で頭を抑えて涙目になっているクジャをほっといて俺はリビングのテーブルに席をついた。
もう最近日常茶飯事だ。
髪の毛がボサボサだが、しっかり目は覚めたらしくクジャもテーブルにつく。
「「いただきます」」
二人て声を合わせて言う。
これはもう小さいころの習慣で、少し気恥ずかしいものの変えようとは思わない儀式の一つだった。
俺の作った洋食の定番(パンにスクランブルエッグにベーコンレタス…と牛乳)朝ごはんは少し前に作ったものの暖かい。
「パン焼くか?」
「うん、お願い」
パンをトースターに入れて時間を確認する。良かった、まだ15分だ。
クジャは高校の音楽教師兼世界に通用する歌手だ。
歌手の場合はテレビにでないしCDジャケットにも珍しくクジャはでない。
どうやって両立しているのか聞いたことがあったけどどうやら歌手のほうが趣味らしい。
趣味で世界に通ずるって神様はなんて才能をクジャにあげたんだ。必死に頑張っている他の人が不憫だ。
実は劇をしたい(ミュージカルかそうでないかは忘れた)らしいけど、それじゃ顔がでて世界中が嫉妬するんだそうだ。俺はあえて突っ込まなかった。
チン、と音を立てて飛び出したパンを空中で受け止める。そろそろこいつも買い時かな。
「ジターン、牛乳とって」
「はいよ」
パンと一緒に渡す。もう一枚のパンにジャムをぬりながらそういえば、と声がもれた。
「クジャ、今日何限目からコマ入っていんだ?」
「んー…朝から入ってるよ」
「は、あ?」
時計を見る。もう30分!
「もっと早く言えよ!」
音楽が1限目からなんて珍しい。
しかも今週は授業が早いらしく8時15分からはもう始まる。
高校はもうわからない。
今だゆっくりパンを頬張るクジャにため息をつきつつ、今日着る服と鞄を持ってきて、クジャの髪をとく。
我ながらなんていい弟だ。
兄がこんなだと弟のスキルが上がるってもんだ。いらないスキルばっかだけど。
「はい、食べたんなら着替えて!」
「…ジタンお母さんみたいだね」
「だまらっしゃい」
なんでクジャより俺が焦っているのか、理不尽だと思いながらクジャの背中を押す。
全ての準備が終わったのはもう授業開始25分前。ギリギリに行く教師っていかがなものか。
「そんなに急かさないでよ、まったく」
こっちがまったくだ。
「じゃあジタン、いってきます」
「いってらっしゃーい」
小さく手を振ってクジャはやっと出勤した。
こんなことクジャには絶対言わないけど、いってらっしゃいって見送るのは意外に好きだったりする。
リビングに戻ると、自分の食べかけの朝ごはんと、弁当。
…………弁当?
「……はあ」
焦って物事をするとろくな事にならない。今日の俺は完璧だと思ったんだけどな。
あとで持って行ってやるか。
ジャムを塗っただけだったパンを口に入れる。
テレビは朝8時をお知らせしていた。
(110611)