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珍しく雨が降った。
激しい雨じゃなくしとしとと緩やかに、しかし優しく降っているとは思えなかった。
泣いているみたいに。
静かに一人で泣いているみたいに。

誰がこんなに悲しくさせたのだろう、と思わずにはいられないほどただ緩やかに雨は降った。

ああ、もしかしたら。
膝を抱えて泣いているだろうか。
大声で泣き叫んでいるだろうか。

変な胸騒ぎは収まらず感覚だけを頼りに探して歩く。
雨で視界の自由はきかない。
別に何でもなかったらそれでいい。
姿を確認して怪我はしていないか、体力は消耗してはいないか…泣いてはいないか。

雨で濡れた前髪をかきあげる。

ばしゃばしゃとブーツに跳ねる水を気にせず走りたくなるのを抑える。
だんだん自分が早足になるのがわかる。
どこにいる、どこにいる。

「くそ、どこ行ったんだ…ティーダ」

柄にもなくイラだっているのが自分でもわかる。
こんな雨の日にふらりといなくなったティーダと、それに気づかなかった自分に。

雨が激しくなる。

悪くなる視界の向こうに、いた。

「ティーダ!」

上を向いて、立っていた。
ティーダも俺もびしょ濡れで。

俺の声に反応しない。
何故かそこだけ、景色が違って見えた。

「…っ、ティーダ!」

思わず腕を掴む。
ティーダがこのまま消えてしまいそうな気がした。
こちらを振り向いたティーダは涙なのか雨なのかわからないくらい濡れていた。

雨が激しくなる。

「スコール」
「ティーダ…」
「俺は消えないよ」

激しく打ち付ける雨の音の中で、ティーダの声だけは小さくても鮮明に聞き取れた。

「スコール、なあスコール。スコールが俺を覚えていたら俺は消えない」
「俺は…忘れない」
「スコールの中で生き続ける。だから、」

忘れないで、俺を。

雨が、ああ、泣いている。
太陽が、泣いていた。
忘れないでと、覚えていてと。
俺はここにいると。

「ティーダ、俺は、俺は忘れない」

抱きしめた体は、身長もそんなに変わらないはずなのにとても小さく感じた。








それはまるで
(太陽が泣いているように)




(110611)
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