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-アクシデントは突然に-



ジタンはさっきから先程手に入れたクリスタルを見つめていた。
投げたり回したり、視線はずっとクリスタルに注がれている。

「なあ、ジタン」
「んー?」
「何してんだ?」
「んー」

話し掛けても生返事しか返ってこない。
そんなにクリスタルを見つめて何が楽しいのか。いや、ただ考え事をしているだけかもしれない。
どちらにしろ、面白くない。
伏せられた長いまつげに、長すぎて大きな瞳が見えなくなるじゃないかと思った。

「ジタン」
「うん」
「キスしようか」
「………はあ?」

やっと反応してこっちを向いたジタンに返事も聞かずそのまま桃色の唇に口づけた。
意外に、いや予想より柔らかいんだな。
クリスタルが転がっていく音がした。
抵抗しないジタンに調子に乗って、ジタン後頭部を引き寄せてもっと深く口づける。少し開いた唇から舌を侵入させて逃げるように身をよじるジタンの咥内を貪るように犯した。
溶けるように甘くて脳を痺れされる感覚は、まるで媚薬のようだ。

「…ん、ふ…ぁ」

ジタンから甘い声が漏れて、一気に正気に戻った。

「…は、バッツ…」
「あ、」

唇を離してジタンを見ると、大きな瞳で真っ直ぐ俺を見ていた。
やばい、やりすぎた。
その瞳が俺を見ていないのが嫌だっただけなのに。
金色のまつげが微かに揺れている気がして、とてつもなく後悔した。

「…なんで、キスしたんだよ」

ジタンは俺から目を逸らして言った。顔と声からは、今ジタンがどんな感情が渦巻いているのかは判断出来なかった。

「え、っと…つい?」
「つい、って、お前…」

ジタンは一瞬だけ俺を見て、すぐに逸らした。
それから傷ついたような、泣きそうな顔になって俺は慌てた。
女の子が好きなジタンのことだ、男にキスされて、しかもそれが友達なんて相当ショックだっただろう。

「ご、ごめん!やりすぎた!」
「…つい、で」
「え?」
「つい、で誰とでもキスできんのかよお前は!」
「ジタン、」
「なんだよ、出来心でキスなんかすんなよ!俺が、惨めだろ…っ」

肩を震わしてジタンは俯いた。

胸の奥がずきりと痛んだ気がした。
違う、泣かせたかったんじゃない。

「ジタン、ごめん」
「…あやまんなよ」
「気持ち悪かったよな、でも俺、出来心なんかじゃなくて好きなんだ」
「……は、」
「ジタンが俺を見てないのが嫌だしジタンが俺以外と喋ってるのも嫌だし、…多分、好きなんだと思う。だから、出来心じゃない」

勢いよくジタンが顔を上げた。
泣いてはなかったけど、かわりにとても真っ赤だった。

「あ、えと、…今、なんて?」
「好きなんだ」
「…俺が?」
「ジタンが」

ふーん、とか、そっかとか目線をあちこちに移動させながらジタンは呟いた。
玉砕覚悟の成り行き告白だったが、手ごたいあるというか、ジタンの反応は拒絶しているようには見えない。

「…俺、ジタンが好きだよ」
「……ああ」

せわしなく動く尻尾が可愛い。
多分照れているんだ。よかった、嫌われなくて。
キスした後は本当にこの世の終わりかと思った。世界を救わなきゃいけないのにな。

「…バッツ、俺もさ、好きだ。多分」
「多分なのかよ」
「だからさ、お前がつい、ってだけでキスするのかと思ったらすげぇ嫌だった。誰とでもすんのかな、って」
「さっきついって言ったのは、ジタンを見てたらキスしたくなっただけで」

あほかって尻尾で叩かれた。
未だ赤い頬を見ていると、結果的にキスしてよかったらしい。
なんだ、結局両思いじゃん。

「なあジタン。もっかいキスしていい?」
「そういうのは聞かないもんだぜ」

子供みたいな触れるだけの短いキス。
俺たちは見つめ合って、そして小さく笑った。




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