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-刺のない華-



星の体内。
異様で美しい碧の色で彩られた場所。
ここはきっと私の世界にあったのだろう。気がつくとこの場所に足を向けていた。
ここが私の場所なのだと感じると同時に、不思議な高揚感に包まれる。

この、私が、だ。

碧の…そう、ライフストリームがきっと私の還る所なのだ。
ふと、銀髪の…名前は何だったか、クラウドと共にいた男の持っていた花を見る。
血のように紅く、茎には刺が無数にある。
花。紅い花という情報しかわからない。
自分は花に興味がなかったのか、それとも身近になかったのかは知らないが、私はこの花の名前を知らない。

あるいは、知っていたが記憶とともに消え去ったか。

どちらにしろ調べようにも、この世界に書籍などあるとは思えない。
実際ないのだろう。

「あれ、なんで薔薇なんかもってるのさ」
「…クジャ」

気配を隠そうともしないクジャに逆に身構えてしまったようだ。
いや、それよりも。

「…ばら」
「え?」
「ばら、というのか、この花は」

クジャが呆けたような表情をする。
彼の世界ではこの花は案外普通にあるのだろうか。

「…ああ、うん。薔薇、だよ知らなかったのかい?」
「知らない。見たことないな。俺が覚えてないだけかは定かではないが」

若干の厭味が込められた声色だったが、気にせず知らないと言った。
たった今名前を知った花に少し興味が沸いた。
この探究心に自分が疼いたのがわかる。
どうやら俺は調べたりするのが好きらしい。

「…君、」

花の名前を知っていたクジャに、詳しく聞こうと思って顔を上げると、こちらの顔を覗きこんでいた。
顔が近い。

「自分のこと"俺"なんて言ってたかい」
「…一人称などに意味はない」
「そうかなあ?僕には君がいつもと別人に見えるけどねぇ」

たかが一人称くらいでクジャは別人だと言う。
たしかに、俺と言ったのは無意識だったが、先程言ったように意味はない。

「君は薔薇みたいだ」
「………?」
「美しい、だから手を延ばしたくなる。でもそれには刺がある。」
「………」
「むやみに掴もうものなら刺でぐさり。」
「俺には刺は生えていない」
「…それ天然かい?」

優雅な動作で俺の手からばらを掻っ攫っていった。

「まぁ、僕の次に、だけど。僕は銀、君は黒い薔薇かな」
「他にも色があるのか」
「さぁ?僕は深紅しか見たことはないけれど、いいじゃないか、黒き薔薇。美しいだろう?」

たしかに、美しいのかもしれない。
ただ、俺をばらだと例えるのは少しズレている気がする。

「美しく、自身を守る刺があろうとも、俺はそのばらのように簡単に壊されたりしない。」

クジャが力を込めれば握り潰されてしまうだろう。
花など、弱く脆い生き物だ。

くすりとクジャが笑う。

「見た目の問題だよ。それ自身が強いかなんて関係ない。今の話ではね。それに」

ばらが歪む。クジャが力を込めたせいだ。花弁が一枚落ちる。

「美しいものは壊れるときが一番光を放つんだ。モノでも、ヒトでもね」
「矛盾している。そんなことしたら、元には戻らない。ただ一瞬の美しさに心を奪われているだけだ」
「そうだね、でも…美しいければ美しいほど、壊したくなるし汚したくなる。君もそうなんじゃない?あの子は、美しい」
「お前も」
「え?」
「お前も美しいだろう。でも壊そうとは思わない」
「…僕はもう壊れているから。それにしても、君に言われるとはね」

くくっ、と笑ってクジャは岩に腰を降ろして足を組む。

「君は美しい。僕の次に。だけど僕と同じように既に壊れている。だから僕は君を壊そうとは思わない。」
「…壊れている、か。そうだな」
「でも今の君は、まるで"壊れる前の君"みたいだ」
「………………」
「ああ、僕達だけじゃない、カオス陣営にいるあいつらも皆壊れてる。壊れているのを壊すことは出来ない。」

クジャの手にあったばらが、少し歪んでいつの間にか俺の手に戻っていた。

「でも、ジェクトは違うかもねぇ。なんでこっち側にいるか疑問に思うよ」
「…それは同感だな。あいつは、ここにいるには光が強すぎる」
「ふふっ、ジェクトは壊れてないけど壊そうとは思わないね。壊れないし狂わない。ある意味一番強いのは彼かもしれないね…」

会話が途切れる。クジャは何か考え事をしているようだった。
ばらを見つめて先程思った疑問を思い出したが、もうこの花に対しての興味は失った。

目を閉じて記憶を探っても感じるのはライフストリームの流れるような雰囲気だけだ。

クジャが何をしにここに来たのか、あるいは通っただけなのかという疑問を投げ掛けようとも思ったが、面倒なことになりそうなのでやめておいた。

手の中にあるばらの茎を強く掴む。
見た目よりも、鋭い。

そうだな、まるで俺達のようだ。
思わず小さく笑いを零すとクジャが驚いたようにこちらを向く。

「…君、そんなふうに笑えるんだね。うん、そのほうがいいよ」

そう言っていたクジャの表情も柔らかく目を細めて笑っていた。

少なくとも、今の俺達には刺はないらしい。





(110611)
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