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-空中浮遊-



ずき、と痛む足を庇いながらジタンはゆっくりと道なき道を歩いていた。

「う…い、って…」

ぐらりと少し傾いたとたんに右足の痛みが増す。
とっさに第三の足(尻尾ともいう)で支えて倒れるのは防いだが、もうなんだこれ痛すぎる。
最近は回復魔法やポーションに頼りっきりだったのと、イミテーションが弱すぎてここまで怪我を負わなかったせいですごく痛く感じる。

慣れとは怖いもんだ。

「ああもう、ここどこだよ」

歩くことさえ投げ出しそうな心をなんとか抑えつつ、ジタンは歩き続けるがスピードが遅いため進んだ気がしない。
日も落ちてきた。これ以上進むのは危険だとわかっていたが仲間のもとに辿り着けないほうがもっと危険だと判断した。

もっとも、崖から落ちたジタンが辿り着けるのは相当先だろう。

「あー…お腹すいた…」

独り言も多くなるというものだ。
場所もわからない。
こんな状態で敵に遭遇したら弱いイミテーションでもギリギリ、イミテーションじゃなかったらもうアウトだ。

ティーダの親子さんとかだったら見逃してくれるなり運んでくれるなりしてくれるだろうが、それ以外は…考えたくない。
足は確実に折れているが、血と骨が出ていないのが唯一の救いだ。
人間がどれだけ足がなかったら苦労するのか少しわかった気がした。
沈む夕陽の広がる空を見上げてはため息しかでない。

「…クジャやセフィロスみたいに魔法や羽で飛べたらなあ…一発なのに」
「ほう…お前は飛べないのか」
「クジャは飛べるのに俺は飛べないって俺のほうが…て、あれ!?」

いつの間にか誰かと会話していたらしく、その誰かはジタンの背後から声が聞こえた。
現在俊敏な動きが出来ないはずのジタンだが、驚いた拍子に素早く振り向いたことが足に大きなダメージを与えたようでそのままへたりこんでしまった。

「…セフィロス…なんでここに」
「俺がどこにいようと俺の勝手だろう」

しれ、と答える人物はクラウドの宿敵でありカオス側…つまりはジタンの敵でもあるセフィロスだった。
やばい、やばい、逃げられない。
つう、っとパニックになっているジタンの頬に冷や汗が垂れる。
もうだめだ。
俺には、帰る場所があるのに…ごめん…ダガー。
強く目をつぶるジタンにセフィロスが近づく気配がする。

「最後にダガーに会い…っに゙ゃ!?」
「ちゃんと神経は繋がっているのか…犬猫と一緒なのか…?」
「な、ななな何して、」
「…逆立つのはまるで猫だな」

ジタンの予想は外れ、セフィロスは攻撃をしかけるわけでもなく隣に片足ついてジタンの尻尾を掴んでいた。
それも強い力で掴むものだから変な声がでてしまったのは仕方ない。

セフィロスは尻尾に興味津々らしく、引っ張ったり撫でたりしてなにかを調べる手つきをしている。

少なくとも敵意はないようでジタンは小さく安堵の息を吐いた。
動くことも出来ず、かといって変なことを発言して一刀両断されてはたまらないのでジタンはじっとしていた。

そういえばクラウドが良く話す『英雄時のセフィロス』に雰囲気が似ている。
あれはこうなるまえのセフィロスだと言ってたけれど、今はもしかして『英雄時のセフィロス』なのかもしれないな。と、暇を持て余したジタンは漠然と考えていた。

「クジャはお前を弟と言っていたな」
「まあ、一応そんなもんかな」
「血は繋がっているか」
「血はわかんないけど、細胞と造ったやつは一緒」

細胞、という言葉にセフィロスのクラウドと同じ碧い目が少し揺らいだがそれは一瞬のことだった。

「あいつにもあるのか、尻尾は」
「あると思う。バニシュかなんかで消してるんじゃないかな」
「…そうか」

尻尾に興味があるらしいセフィロスはクジャの尻尾も気になるらしい。
慌てて俺は言った。

「あいつ、えーと、尻尾があるのが嫌みたいだからあんまり突っ込んだこと聞くなよ?ギャーギャー騒ぐぞ」
「…それは、肝に命じておこう」

クジャはカオス陣営でも騒いでいるのか、セフィロスが(あのセフィロスが!)苦々しい表情をする。
こんな表情でもクラウドは喜ぶんだろうなと考えてジタンは苦笑した。

すっ、とセフィロスが立つ。
良かった、助かった。
これが皇帝なら問答無用であの世いきだっただろう。

安心するジタンをセフィロスは片手でひょいと持ち上げた。

「…え、何してんの…?」
「足が折れているな」
「…まあ」
「お前の仲間は近くにいるがお前では明日になるだろう」

それこそ犬猫を持つように俺を持つセフィロスに、ああこいつ俺のことペットかなんかと思ってるなと感じたが、運んでくれるらしいのは有り難いので大人しくすることにした。

「あんた、意外に優しいんだな」
「…ふん。お前に手を出したらそれこそクジャがうるさいだろうからな」

歩いているときは終始無言だった。
夜なのと意外に体は疲れていたのか、揺れている振動が心地よくてジタンは夢と現実を行ったり来たりを繰り返していた。

もう既に船を漕ぎはじめていたジタンをセフィロスはちらと見て、ジタンを横抱きにして翼を広げて飛び立った。

「…うお!?」

気づくと地上ではなく空にいたことに対してジタンは声をあげた。
セフィロスの顔が上にある。どうやら姫抱っこされているらしいことに、確実に小動物だと思われてるのだと俺は確信した。
悲しい確信だった。
少しでも眠ってしまったことに後悔した。
なんで俺が姫抱っこされてるんだと思った瞬間、セフィロスと目が合った。

「この真下だ」
「え?」

下を見ると仲間の皆が一箇所に集まっていた。
どうやら俺を探しているらしいことにちょっと涙が出そうだった。

「なあセフィロス」
「受け止めてもらえ」
「え、ちょ、…うわああああ!!!」

感謝の言葉を述べようとした瞬間手を離され落とされた。

いやいやいや高いってえええ!!!

「あれ、ジタン!?」

バッツの声が聞こえた。
そうですジタンです誰か受け止めてくれ!

「危ない!…お…っと、」
「セ、セシル…ありがとう」

軽く半泣きになりながら受け止めてくれた(また姫抱っこだったけど)セシルに感謝した。

「どういたしまして。ジタンはどうして空から降ってきたの?」
「…セフィロス」

クラウドが近づいてきて、俺の頭に手を伸ばした。
ジタンの頭には、闇色の羽が一枚付いていてクラウドはそれをすっと取る。

「セフィロス、か?」
「そう、そうなんだよあいつ落としやがって!あれ!?もういない!」

上を見て指差してもあるのはもう真っ暗な空と輝く月だけだった。
文句と感謝を言おうと思ったのに。ジタンは心の中で呟いた。
今度会ったら言おう、そう決意してジタンはクラウドから黒い羽を受けとってその羽を見つめた。

やっぱり、俺はとべなくていいかなあと思う。落ちるのは、もうごめんだ。




(110611)
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