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任務のため、朝の集合時間に幾分か早く着くように家を出る。
下忍に回ってくる任務など何でも屋よろしく雑用ばかりと生温いもので、そして依頼人の認識も同じようなものなのだろう。
不満だらけ、いやオレだけでなくナルトやサクラもきっと不満しかないのは明白で、ナルトに至ってはここ最近拗ねている様子だ。
ガキか、とも思うのだが心中は大してオレと変わらないのだともわかるのでナルトを制さないことでカカシへの主張をしているようなものだ。
だからといって手を抜く、ましてや時間に遅れるなんてもっての他だが第七班の隊長はそうでもないらしい。
五大国最大里の上忍がはたしてこれでいいのかと訝しげになっていたがどうやら本人の性格によるものだろう。

ナルトはいつもギリギリで、サクラは時間通りに来る。
だから何時の集合だろうと一番先に来るのはオレで、近づいてきた黄色頭と目立つオレンジを見たときは今日は雪が降るなと咄嗟に思った。

集合場所の目印である大きな木に体を預けながら目線は空にあり、いつものナルトの雰囲気とは少し違って見えた。一人でいるからなのだろうがいつも騒がしくてガキのようなこいつが、まるで憂いているような表情にオレは見覚えがない。

任務中オレがナルトを助ける場面が遥かに多いが、そんなこいつに逆に助けられたこともある。意外と中身は言動や見た目ほど子供じゃないのはこの短期間でも見てとれた。それでも表に出るのは子供の部分だけなのはこいつ自身が自覚していないからだ。
オレも、わざわざ教える義理もない。

「サスケ」

空に向けられていた視線がこちらに気づくと、よ、と片手を挙げた挨拶をしてきた。
それに答えはしないが合図のようにいつの間にか固まっていた足が動き出した。

「なにそんなとこでつったってんだってばよ」
「珍しいこともあるもんだなと思ってただけだ」
「なんっかさあ、今日はすっげー早く目覚めちまってさ。つーかお前、いつもこんな早く来てんのか?」
「お前らが遅すぎるんだよ」
「いやでも、時間よりめちゃめちゃ早いだろ今。そんでさ、そんでさ、それからカカシ先生待ってたらもうなんかアホみたいじゃん」
「…テメェ、喧嘩売ってんのか。大体、今日はオレもたまたまいつもより早く来すぎただけだ。あと、時間前に来るのは常識だろ」
「ふうん。でもさ、カカシ先生ってば上忍で先生なのに時間通りにきたことないってばよ」
「あいつはとくべ…いや、おかしいだけだ。真似するなよ」

そうだよなーカカシ先生ってばやっぱり変だよな、と納得している様子のナルトからは先程の雰囲気は微塵も感じない、いつものナルトだ。

少しだけ離れた場所に並んでいた隣の気配が、また静かになった。
チラと横を見るとまたナルトの顔が上を向いていて、それに吊られてオレも空に目線を移す。
早朝の空は風の動きが緩やかで澄んでみえた。

あっちにさ、と言葉とともにナルトの指が一点を指した。

「月があるんだってばよ。なんか明るいのに月があるっておもしれーよな。太陽と月が一緒にいたりいなかったり、なんか法則があんのかな」

薄い水色の絵の具を伸ばしただけでは表現出来ないだろう蒼に、小さな三日月が未だ居座っていた。

「…アカデミーで習っただろ」
「じゃあサスケわかんのか?」
「わざわざ天体のことなんざ覚えてるかよ」
「なんだよ、サスケもわかんねーじゃんか」
「お前に言われたくねーよ」
「サクラちゃんならわかるかな」
「…有明」
「ん?なんか言ったか?」
「あれ、有明の月っつーんだ。夜が明けてもまだ見える月。法則は知らねぇ」
「へえ、有明かあ」

ゆっくりと動く雲が少しずつ有明の月を覆い隠して、代わりに強い陽射しが顔を出した。
その眩しさから目を守るように手をかざして、今まで太陽は雲に隠れていたのだと気づく。

木の下にいるからか木の葉の間から縫うような光はさわさわと涼しげな風とともに朝を知らせているようだ。

どさ、と音がしたかと思うと続いて間抜けな欠伸が聞こえてきた。
芝に寝転んだナルトが今から正に眠りますと体全体で表していて思わず足を蹴る。

「いってぇ!なにすんだってばよ!?」
「このウスラトンカチ。こんなところで寝るつもりかよ」
「だってさあまだ時間あるだろ?オレ眠くなっちまったしさ。あ、サクラちゃん来たら起こして」
「ふざけんな、なんでオレが」
「よろしくってばよーサスケェ」
「おい、オレは起こさねえからな。自分で起きなかったら置いてくぞ」


もうすでに何を言っているのかわからないあやふやな言葉を返されてそのまま静かになってしまった。
よくこんなところで眠れる。
あまりにも良すぎる寝付きに呆れざるを得ない。
二人いて片方が寝転がっているのにもう片方が立っているのは不自然で仕方なく腰を下ろした。
ナルトの寝息に若干の苛立ちを覚えながら背中を木に預けて、後の二人を待つことにした。
オレが起こさなくとも、サクラが来ればサクラが起こしてくれるだろう。


雲に隠された有明の月がまた見えるのはもうしばらくかかりそうだ。













「やあー、今日は妊婦の奥さんを…ってあれ?」
「しー、ちょっとカカシ先生、大きな声出さないで」
「どしたの、これ」
「私が来たときはもう二人とも眠ってたのよ」
「うーん、仲良しなのはいいことだが、人の気配に気づかないってのは、ちょっと忍者としてはアレだなあ…」
「ああ…サスケくんかわいい…」








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