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-彼は静かに笑う-



あ、泣きそう。

隣で歩くティーダの顔は笑顔だが、多分、泣くのを我慢しているんだろうな。
と思った。
人の負の感情は昔から感じやすかった。
我慢していればもっと。
ここに集まる光の戦士達は皆、そういう感情を隠すのが上手かった。
それは育った環境であったり、担ってきた責任であったり衝撃的な出来事であったり。
お調子者で明るいティーダであっても例外ではなかった。
いや、例外どころか、隠すのがうますぎる。
それは、そうしなければいけなかったの時間が長すぎたんだ。

だから逆に、こんなに明るいのだろう。
元々、太陽の名のように皆を照らすような素質があったとは思うけど。
さっきも言ったように、隠すのがうますぎるんだ。
うますぎて、感じてしまった。
泣きそうだと。

前にティーダが、『自分の嫌なところは涙もろいところッス』と言ってたから余計なんだろうな。

泣きたいときに、泣けばいいってもんじゃない。
ときにはそれを紛らわすために自分を偽ることも必要かもしれない。

でも、さぁ。

「…バッツ、聞いてるッスか?」
「え?ああ、悪い聞いてなかった」
「逆にすがすがしいッスね…」

ティーダが困ったように笑う。
…あ、また無理してる。
そしてちょっとわかったかもしれない。
ティーダは声も大きくてよく通る。
ぴょこぴょこ跳ねて落ち着きがない(俺も人のこと言えないけどな)。

いつも誰かがティーダを見ている。
そういう風に、しているんだ。多分。
ティーダは昔、ジェクトのオヤジさんがいなくなって母親が死んだと言っていた。
オヤジさんがいるときも、母は自分の息子より愛する旦那さんに没頭だったらしい。まぁ、オヤジさんかっこいいしな。

そして両親がいなくなっても、付き纏うのは"ジェクト選手の息子"

誰も"ティーダ"を"ティーダ"として見ていなかったんだ。
まぁ、ただの憶測だけどな。
だからティーダは誰かが自分を見ていないと不安になる…のかもしれない。
さっきみたいに隣にいるのに俺が心をどこかに飛ばしているのはとても不安なんじゃないか…って、あ。
ということは俺のせいか。

「…バッツぅ。何考えてるッスか」
「んー、ティーダのこと?」
「はぁ?本人ここに居んのに」

拗ねたように顔を背けるが、耳がうっすら朱い。
なんだかそれがとても可愛くみえて、ティーダの頭をわしゃっと乱暴に撫でた。

「何するッスか!!」
「あはははは!!ティーダは可愛いなぁ!!」

単なる淋しがり屋なんだ。ティーダは。
でもその思いは複雑だろう。
感情と理性と本能が混ざり合って制御出来ず、最後には暴走、とまではいかないけれど多分頭の中はぐちゃぐちゃだ。
プライドもあるだろう。
そういう年頃だ。

そういう年頃になる前に、甘えられなかったんだろう。
だから無意識に求めている。

このメンバーの中ではティーダは年下のほうだ(性格だけをみれば一番年下っぽいけど)。

俺は、ティーダを甘えさせることも出来ないし、泣かせてあげることも出来ないだろう。
それは俺のキャラじゃないし、それもティーダはきっとわかってる。
俺の役割じゃない。
それでも俺に何かを求めているのは俺も同じだからだ。

泣けばいいってもんじゃない。
それでも大人は構ってはくれない。
甘えられるヒトは昔にいなくなった。

「ティーダ」
「…何ッスか。もう髪の毛ぐちゃぐちゃッスよ」
「それは悪かった」
「謝ってるように見えねぇ!」

二人で大声で笑った。

俺は泣かせてあげることも甘えさせることも出来ないけど、少しの間、それを忘れて馬鹿笑いすることは出来る。
今回の場合はちゃんと年頃の兄ちゃんを構ってやれ、ってことだけどな。

「あはははは、バッツ、やば…っ」
「お、お腹いてぇ!!」

ヒートアップしすぎて、何を見ても面白い感じに突入して二人して崩れ落ちた。


人の負の感情は昔から感じやすかった。
我慢していればもっと。

なぁ、俺は誰かの支えになれているかな。それが願わくば、隣で笑う、少年の。




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