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-片翼の英雄-



小さな石がすぐ横パラパラと落ちる。
少し上にいるセシルが動くたびに、パラパラと。

「………ねぇ、クラウド」
「………なんだ」
「どうしよっか」

さすがのセシルも、笑みが引き攣っていた。
俺達二人は、崖の途中にいた。
上や、下ではなく途中。
忌ま忌ましいことに、俺の姿をしたイミテーションに不意をつかれ、攻撃は防いだが、二人して吹っ飛ばされてしまった。

「……いっそこのまま落ちるか」
「やめて、クラウドならしそうだから言わないで」

セシルは横から生えた細い木につかまり、俺はバスターソードを崖に突き刺してとりあえずは助かった状態だ。
足場の悪いここでは(足場なんて無いに等しいが)勢いをつけて壁を駆け上がることもできない。
嬉しいことか悲しいことか、俺達はゲームキャラだから、エアダッシュして向こう側にいけることもないのだが、肝心の向こう側がない。

やったところでどっちにしろ下に真っ逆さまだ。
こういうときチョコボがいれば…ダメだ、あいつは飛べない。
山チョコボならなんとかなるかもしれないな。

「…っ、クラウド!!」

俺が現実逃避していると、セシルが鋭い声で俺を呼んだ。
セシルが俺の後ろを指差す。
なにが起こってたのかはわかってる。
俺があいつをわからないはずがない。

「…何をしている」

そして珍しく敵意がないことも。
俺は後ろを振り向いて、黒い翼を広げてこちらを訝しげに見ているセフィロスを見た。

「セフィロス、見てわからないか?」
「不自然な格好で止まっている」
「…間違ってないんだけどね」

セシルがため息をつく。
やめてくれ、少し動くとあんた落ちそうだ。
セフィロスの目が俺からセシルに移動し、弟か、と呟いた。

「弟?ああ、うん。そういえば兄さんはカオス側だったね…」

なんだか問題発言が聞こえた気がした。
最初からあんたの兄さんはカオス側だ。
しょんぼりしたセシルをセフィロスが担いだ。
え、ちょ、セフィロスさん!?
助けるのか落とすのか知らないが俺が先だろう俺だってセフィロスに担がれたい!!

「うわっ」
「捕まっておけ」

俺ももれなく担がれた。というか抱きしめられる格好なんだが。

「ま、待てセフィロス!!バスターソードが」
「俺も一度に持てるわけじゃない。あとで取れ」

なんだそれ、またぶらさがれっていうのか。

「……あとで取りに行く」
「絶対だぞ!!」

俺ら二人の会話をセシルがセフィロスの横腹に抱えられながら苦笑していた。
思ったよりゆっくり上がっていく。
セシルは鎧で重いし、そもそもセフィロスは片翼だ。
いくら力があっても一度に持てないというのは本当らしい。
ゆっくり上がってるにしては片方しかない翼はばさばさ動いているしな。

セフィロス本人は至って無表情だから余計面白い。
まるで水面下では必死なのに水面上では優雅な白鳥だ。

「…何故笑っている」
「いや、くくっ、なんでも」

よく見たらセシルも笑ってた。
目が合ったら二人して吹き出した。
二人で笑ったせいでセフィロスが困惑して、それがまた笑いを誘った。



「久々に声出して笑った」
「僕もクラウドがあんなに笑うとは思わなかったよ」
「セシルもな」

俺達を崖の上に降ろしてくれたセフィロスは、今俺のバスターソードを取りに行っている。
敵同士なのに、長年の敵なのにこのほのぼのしたのはなんだろう。

「そういえば…なんで僕らを助けてくれたのかな」
「さぁな」
「クラウドの…バスターソードだっけ?今更だけど取っていったりしないよね」
「それはない」

即答した俺に、セシルは少し驚いたようだった。

「どうして?」
「今のセフィロスはセフィロスじゃない。俺の知ってるセフィロスだ」
「…どういうこと?」
「セフィロスの一人称が"俺"になっていたのに気づいたか」

少し考えこむようにセシルは天を仰いだ。

「…うん。多分、言ってたような」
「セフィロスはある日を境に変わったんだ。なにもかも。」
「………」
「喋り方も。"俺"から"私"になった。なんでかはわからない。原因はわかったけどどうしてああいう風になったのか。俺からはまるで別人に映った。俺が、皆が憧れているセフィロスは、」

ぼんやりとしか映らなかった元の世界の情景が、霧が晴れたように鮮明に映しだされる。

「さっきみたいに、助けてくれるんだね」
「…ああ。セフィロスは英雄だ。英雄は、強いだけじゃ、なれない」

冷たくみられがちだったが、さりげない言葉、行動に隠しきれない優しさを秘めていたのだと親友は言った。

「これはトモダチの言ってたことだが、よく同僚と隠れて色々遊んでいたそうだ」
「へぇ、あのセフィロスが」
「どのセフィロスだ」

バスターソードを片手で持ったセフィロスが下から上がってきた。

「ああ、ありがとう」
「そういえばセフィロスは、どうしてあんなところに?」

セフィロスは無表情だったが俺にはわかった。しまった、という顔をしていた。

「……クジャが」
「あ、セフィロス!!やっとみつけたよ!!どうして逃げるのさ!!」
「…煩い奴だ」

セフィロスはクジャから逃げるように飛び立った。
しばらく二人は俺達の上空で騒ぎながら(主にクジャが)一人は逃げ、一人は追い掛けていた。

「なんだか、二人とも楽しそうだね」
「……そうか?」

セフィロスはクジャから逃げていたときに俺達を見つけたらしい。
なんで逃げてるんだろう。

そしてふと思った。

「…俺以外銀髪だな」






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