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夜の雨は無音ではないがどこか静寂を思わせる。
時折激しく、時折緩やかに、その差はあれど長い時間一定の音を放つ雨は雑音を消し、だからこそ静寂を生み出しているのかもしれない。そのくせ音がとめどなく流れるという矛盾さえも大自然の原理の前では無意味だ。

風で窓が揺れる。
どうやら夜中訪れると思っていた台風は意外にも早く到着したらしい。

そんなことをリーオはぼんやりと窓の外を見つめながら考えていた。

今日は平日ではあるが迫りくる台風に備え、生徒は午後には帰宅が許された。
つまり午後からは暇だったというわけだ。突然のことで宿題が出たわけでもなく、ならばリーオのすることは決して多くはない。しかしそのことに没頭したらしく時間は随分と進んでいた。

パタンと分厚い本を閉じる。
なんのことはない、リーオがしていたのはただの読書だ。近くに山積みにされている大量の本を見なければ、だが。
ちらと隣のベッドを見ると、同じように本に没頭するエリオットの姿があった。

いや、それには語弊がある。エリオットは没頭しているわけではなくただ本のページを眺めているといったほうが正確だ。
本を読んでいるわけではない、と付き合いの長いリーオには一瞬で理解した。

「…エリオット?」
「…ん、…ああ」

本から目を離さず生返事を返すエリオット。その姿からはいつもの凛とした覇気は感じられない。
リーオの持つ本が湿気で濡れている感覚に陥る。
エリオットは疲れているだとか、嫌な夢を見ただとか、そういう類ではなくとも雨の日はぼんやりしている時が多い。
そしてそれはなにか意味深なことがあるわけでなく単に降り続く雨に気持ちが沈んでいるだけだと付き合いの長い、そして彼の従者であるリーオがわからないはずもなく。

もう一度主人の姿を見るとリーオは無言で立ち上がる。
こういうときは気を紛らす、もしくはリラックスするといったことが必要だろう。
それでなくとも彼はいつも、彼自身が乗せた重みに耐えているのだから。

「…リーオ?」

暫くするとエリオットなにかを確かめるようにリーオの名前を呼ぶ。
それはきっと、この匂いだろう。温かな湯気と共に香る優しい香り。
カチャ、と音を立ててカップを置く。

「はい、エリオット」
「あ、ああ」

リーオがエリオットに渡したのは、昨日の休日に買った新しい紅茶だった。それに、ミルクを入れたもの。つまりはミルクティーだ。
普段はミルクなど入れず紅茶そのものを楽しむものだが時折こうして違う楽しみ方をする。リラックスしたいとき、悪夢により目覚めてしまったとき。

「どう?」
「……ん」

ふわりとした、リーオにだってそう多くは見れない…笑みを浮かべたエリオットに紅茶を買ってよかったとこちらも嬉しくなる。
雨音が柔らかい音に変わっていく気がした。


紅茶のいれかた

(愛情が隠し味!)



(110611)
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