Main

Start++


-宙を漂う-



時々わからなくなる。
俺は俺自身で居られているのか。
この感情は俺自身のものなのか。
俺は誰で、何を感じているのか。

俺は、お前を
お前をちゃんと視えているのか。

―わからなくなるんだ。





甘い香りが漂う。
首都の端の端にある自分の家。
使った機器などを洗いながら、出来上がるのを待つ。
オーブンが示す残り時間は約4分。
待ちきれないのか、オズとアリスがオーブンの前をうろうろしている。

「なぁーギル、もういいんじゃない?」
「ダメだ。」
「ワカメはケチだな!4分も1分も変わらないだろう!」
「そんなこと言ってもダメだ。というか変わらないのなら4分くらい我慢しろ」
「早くマフィン食べたいよー」
「はいはい」

二人が輝かんばかりの瞳で見つめてくるのを無視して、キッチンを追い出した。
向こうの部屋で文句を言ってる二人に苦笑する。
お菓子を乗せる皿を出していると、丁度出来上がったらしい。

…うん、上出来だ。

偏り無く形良く膨らみ、色も良いし香りも抜群。

「…ギル、出来た?」

オズが遠慮がちに聞いてくるのが可笑しくて思わず笑みがこぼれた。

「何で笑うのさっ」
「いや、ほら、出来たぞ」

早速つまみ食いしようとする手を阻止して、全てを皿の上にのせる。

「ケチ。」
「すぐ食えるだろ」

皿に乗せたマフィンの上に細かい砂糖…名前はなんだったか、をかけていると、ふと何かが引っかかった。
何かを忘れている気がする。

「なぁ、オ「アリス、まだ食べたらダメだって!」
「なんだ、お前までケチなのだな!」
「俺がまだ食べられないのにアリスだけ先に食べるなんてずるい!」
「………」

呼び止めた声が宙を舞い、伸ばした手は行き場を無くし、そのまま下を降ろす。
無視されたのではないことくらい、それくらいわかる。
でも、思い出すのだ。
こんな些細なことで。


どんなに声を張り上げても、
どんなに手を伸ばしても、

届かなかった時を。



「ギル?」
「どうかしたか、ワカメ頭」

気がつくと、二人ともこちらを見つめていた。

「い、いや…なんでもない」
「ほら、アリスが先に食べちゃうから」
「なっ、ひ、一つくらいで落ち込むなこのワカメ!」
「ワカメワカメ言うな!…ほら、この皿はもう持っていっていいから」

嬉嬉として皿を持って行く二人の後ろ姿を見つめる。



時々わからなくなる。

俺は俺自身で居られているのか。
この感情は俺自身のものなのか。
俺は誰で、何を感じているのか。

俺は、お前を
お前をちゃんと視えているのか。


わからない、わからないけど。





「ギル」

ひょこっとオズが顔を出した。

「なんか悩んでるんだったら、俺を頼ってもいいんだぞ俺はお前の主なんだからな!」

太陽のように笑った。

「…あぁ」




強くて、でも実は脆い
俺の主人を
もう二度と失いたくないと
思ったんだ。







(あれ、ギル、紅茶はないの?)
(……あ。)
(オズ、これうまいぞ!!)






(110611)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -