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「お、おい…ヴィンス…?」
「…………」

ナイトレイ家のテラスで、珍しく機嫌が悪いのか一言も喋らない弟と向かい合わせで二人きりというのは、居心地が良いはずもなく。
俺が何かしたのか…?
冷や汗をかきながら心の中で自問自答を繰り返した。



-兄弟の事情-



オレが何かをしたのかは定かではないが弟の機嫌が悪いのは事実で。
思えばお茶に誘われたときはいつもの笑顔だったはずだ。
むしろ機嫌は良かった。
もしかしたらその誘われたお茶会に遅れたからだろうか。
でもその時間は5分で、どちらかというといつもはヴィンセントのほうが時間にルーズであるため、遅れてくるのが常で。
誘ったのはヴィンセントなのにオレが準備をするというのもしばしばだ。

だから、違う…と思う。多分。

元々感情がころころ変わり、そのわりには顔には出さないからある意味難しい奴ではあるのだが。
…どうしたものか。
こういう時に限ってエコーはいない。
避難しているのか?

「…ねぇ、ギル」
「な、なんだ?」

紅茶に角砂糖を入れ、掻き混ぜながらヴィンセントは話す。

「ギルは…僕のこと好き?」

いつも、ヴィンセントはオレの事を好きだと言うが、オレの気持ちを聞いたことはなかった。

『ギルが僕の事が嫌いでも、僕がギルの事好きならそれでいいんだ』

というようなことを昔言っていたが、別にオレはヴィンセントの事は苦手だけど嫌いなわけじゃないんだ。

「あたりまえだろ」
「…本当に?」
「嘘なんかついてどうする」
「そっか。よかった」

久しぶりに見る、いつもの含みのある笑顔ではなく純粋な子供みたいな笑みをヴィンセントは浮かべた。
そして思ったが、オレはヴィンセントのこの表情が好きなんだ。

「今日は…美味しいお菓子が手に入ったんだよ」

一気に機嫌が良くなったヴィンセントは嬉々と美味しそうなクッキーをテーブルに並べた。

結局オレは、ヴィンセントがどこで機嫌が悪くなり、何故良くなったのかわからないままになった。


あぁ、ヴィンス、お兄ちゃんはお前がわからないよ。




…オレ兄失格かもしれない。








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