Main

Start++


-漣の音-



ギルバートの部屋から聞こえる街並みの騒音が心地良くて、ちょっと外に出てみたくなった。
屋敷にいるときは外にはあんまり出れなかったから、ギルバートの目を盗めば出れる状況が嬉しい。
ギルバートは心配性だからいつも一緒に行くけど、ちょっと散歩しにいくだけだからいいかな。

というわけで、今俺は首都をぶらぶらと歩いている。
お金があるわけじゃないし何かを買うわけでもないから、本当にただ歩いてるだけ。 暫く歩いてるいると、見覚えのある後ろ姿が見えた。

「あれ、リーオ?」
「あ、オズ君こんにちは」

あっちこっちはねた黒髪に大きなメガネはリーオしかいないだろう。
そしてそのリーオが曲がり角にて立ち止まっていた。
だが主人であるエリオットがいない。

「何してんの?エリオットは?」
「ああ、オズ君あれ見てみて」

リーオの示す方向を見ると曲がった先の人混みの中にエリオットの姿が見えた。
誰かと話しているらしい。
だけど、なんだか様子がおかしい。
誰かに助けを求めるようにキョロキョロしている。

「なんか、エリオット困ってない?」
「あれね、女の子に逆ナンされてるんだよ」
「逆ナン!?え、でもエリオット困ってるよね?」
「うん、助けようかなと思ったんだけど見てたら楽しくなっちゃった」

この従者をもつ主人は大変だなと苦笑した。
でも困ってるエリオットはちょっとかわいいかもなんて。
眉間にいつもよりシワが寄ってるのに相手の女の子…というより女性はおかまいなしだ。
こういう時女の子は強いなぁ。

「オズ君、今行ったら助けを求めてくれるよ」
「へぇ」

俺がベザリウスだと知って、エリオットは俺に冷たい。
俺はエリオットが好きだからいいんだけど、それはちょっと、かなり嬉しい。

「オズ君は金髪だからすぐ見つかるかも」
「そうだね…うわっ」
「僕は本屋に行ってくるからよろしくね」

リーオに押されて飛び出すと、偶然にも俺とエリオットの間の人混みが少なくなって、エリオットと目が合った。
俺を見てエリオットはほっとしたような表情になった。
それを見たとき、心臓が跳ねて体が熱くなった気がした。

「オズ!!」

エリオットがこっちに走ってくる。
…初めて名前呼ばれかも。
と、ちょっと嬉しい余韻に浸ることなくエリオットは俺の手を掴んでさっきリーオといたところまで引っ張られた。
早くもリーオはいなくなっていた。

「…悪かったな、引っ張って」
「いや、大丈夫だけど」

エリオットの手が離れる。それがちょっぴり寂しい。

「じゃあ…俺はもう行く」
「あ、待って!」

気まずそうに歩きだそうとするエリオットにとっさに叫んでしまった。
びっくりして振り向くエリオットに少し安堵した。
俺はまだ、エリオットといたい。

「別に急ぎじゃないんだろ?俺も一緒に行っていい?」
「はぁ?てか急ぎじゃないって決めつけんな」
「でも、そうなんだろ?」

リーオが急いでいる様子がなかったからそうだと思ったけど、それは当たってたらしい。

「…勝手にしろ。うるさく騒ぐなよ」

ということは承諾したということか。
やっぱりエリオットは優しいなぁ。
歩き出すエリオットに並ぶ。
自然と笑みがこぼれる。

「なんだ気色悪い」
「エリオットと一緒に居られるの嬉しいなぁーって」

エリオットがなんだか怪訝な顔しているけど、それは無視することにした。
だってそれは本音だから。

俺はやっぱり、エリオットが好きだ。
多分、友情とかじゃなくて。
でも今は、エリオットと並んで歩くだけで満足なんて俺って結構健気なのかもしれない。

「あ」

前方からリーオと見慣れた長身ワカメ頭が見えて、これから始まるであろう展開に笑い声が漏れた。





(110611)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -