-夜想曲-
物音一つしない部屋。
聞こえるのは同居人で自分の従者であるリーオの静かな寝息だけだ。
静かすぎて、自分が動くたびにする布擦れの音が大きく聞こえる気がする。
眠れない。
まぶたを閉じれば、あの夢の中の映像が浮かんでくる気がして…眠れない。
そんな夜は幾度もあったけれど、最近はそれが続いていて頻繁に眩暈が起こる。
だから、無理にでも寝なければならないのはわかっているが。
眠れないのは仕方ない。
彼を起こさないようにベットを出た。
静かに窓を開けると、夜の冷えた空気が風に乗って、頬を撫でた。
美しく大きな、青白い満月が空に唯一の光を与えている。
その、いっそ禍禍しいと思えるような月は、静寂に包まれた世界を淡く照らしていて。
暫く眺めていると、かなり強い力で手首を掴まれた。
驚いて振り向くと、いつの間にか起きていたらしいリーオだった。
「…あ、起こし―」
「エリオット」
思ったよりはっきりとした音色で、リーオはオレの名前を紡いだ。
「…リーオ?」
「…今日、は」
「え…?」
「今日は一緒に寝よう」
「はぁ?」
リーオはそのままオレの手首を掴んだまま、自分のベットへダイブした。
掴まれたままのオレも自動的にリーオのベットに倒れることになった。
「…リーオ」
「んー何?」
「何じゃねぇよ、ったく…」
「あはは。…でもさ、」
「ん?」
「この方が眠れるでしょ?」
相変わらず掴まれたところから伝わってくる体温だとか、隣に人がいる安心感だとか、それはたしかに感じていて。
感じているからなのかはわからないが、リーオのいう通り、既にオレは眠くなっていた。
でも、それを言うのはなんだか癪だったから無言で枕に顔を埋めた。
「……リーオ」
「何、エリオット」
「…なんでもねぇ」
“ありがとう“なんて、いつかは素直に言えるときがくるのだろうか。
あれほど眠れなかったのに、まぶたが重くて上がらない。
「エリオット、枕独り占めしないでよ」
「…ん、」
「聞いてないよねエリオット。…あれ?寝てる…」
感謝の言葉なんて、気恥ずかしくてきちんと言えないけれど、いつかはちゃんと言いたいと一応思ってる。
だけど今は。
「おやすみ、エリオット」
青白く輝く満月が二人を照らす。
“おやすみ、リーオ“
君の隣にいさせて。
(110611)