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-変わらないもの-



Seed:V

「…っくしゅ」

どうしようかな。
片手で鼻と口を覆いながら思った。
一応、ここは自分の部屋なのだけれど。
自分の性分とはいえ、換気もしなかったのはまずかったかもしれない。
埃が舞っていてさっきからくしゃみが止まらない。
でも、掃除は嫌だ。
させるのも嫌だ。
一番手っ取り早いのは避難。
というわけで、僕は今広いナイトレイ家の廊下にいる。
夜も遅いし、何より眠ろうと思っていたところなので外に行く気にはなれない。

「そういえば、今日は兄さんが帰ってきてるっけ…」

兄であるギルバートが珍しく帰ってきたらしい。
といっても、先程だけれど。
眠くて悪戯する気になれなかったが、どうせだからギルのところで寝よう。
ギルの部屋にはベットは一つしかなかったけれど、一緒に寝れるし一石二鳥かな、なんて。
たまにしか帰ってこないし、前は良く一緒に寝た(ギルのベットに勝手に潜り込んでいた)から大丈夫だろう。
大好きな兄が帰ってこないのは、実は結構寂しかったりするのだから。

「…と、枕持っていかなきゃ」

ベットは大きいから二人でも大丈夫だろうけど枕は確か一個しかなかったはず。

踵を返し、もう一度自分の部屋に戻るため、速足で向かった。







Seed:G

「………?」

なぜか寒気を感じ反射的に身震いした。
色々あって今日は渋々ナイトレイ家に帰ってきたのだが、やはり落ち着かない。
自分の部屋のはずなのに、なんだか知らない人の部屋のように感じるのは、自分のモノがないからだろう。
とりあえず着替えてベットに横になる。
と、同時にドアをノックする音と、「兄さ〜ん」という声が聞こえた。

自分のことを兄さんと呼ぶやつは一人しかいないし、何よりこの音色は、弟のヴィンセントだろう。

「あ、兄さん寝てた?」
「…いや」

ドアを開けると、予想通りの見慣れた顔があった。
いつもと違うのは、寝る直前のラフな姿であることと、あきらかにここに眠りにきたのだと意思表示しているように、枕を両手で抱えていたことだろう。
何しに来たのかは一目瞭然だが、とりあえず問いてみる。

「ヴィンス、どうかしたのか?」
「うん。あのね、部屋で眠れなくなっちゃったんだ」
「?」
「埃が舞って、部屋で寝れないんだ…」

にこーと笑っているヴィンセントを見て状況が分かった。
自分と違い掃除が嫌いな彼なことだから、多分掃除もせず換気もしないで寝ようと思ったら埃が舞っていてくしゃみがとまらない、といったところだろう。
鼻が少し赤くなっている。
埃とか苦手なくせに、掃除をしない理由が俺にはまったくわからないのだが。

「だから…さ、こっちで寝てもいい…かな?」

縋るようにヴィンセントは俺見る。
拒む理由もないし、何より俺はこの眼に弱い。
ヴィンセントは俺にしか、こんな表情を見せない。
それは、人に心を開かない彼が、兄である自分だけには心を許している証拠だった。

「別にかまわないが…ベットは一つしかないぞ」
「うん、大丈夫。一緒に寝るから」

これも予想通りなので驚かない。
というより、こいつのすることに一々驚いていたら心臓がもたない。
招き入れると、ヴィンセントはすぐにベットに飛び込んだ。

「電気消すぞ」
「うん」

ベットの近くのライトだけ付けて、自分もベットに潜り込んだ。

「…こうやって寝るの、久しぶりだね」
「…あぁ」

もう既に眠そうだ
先程からかなり眠かったんだろう。
もう、まぶたが重そうだ。

「…僕、兄さんの…匂い、好き…だよ」

言いながら彼は眠りに落ちた。
非常に気になる内容だったが、それは聞かなかったことにした。

久しぶりに見る弟の寝顔は、昔と変わらない。

いつもは何を考えているのかわからないが、昔と変わらぬ寝顔を見れるのなら、二人ともいい歳だが一緒に寝てもいいと思える。
ヴィンセントの頭をくしゃりと撫でて、自分も眠りに身を委ねた。

ナイトレイ家にはあまり帰りたくはないが弟のこんな顔を見れるのなら、たまには悪くない。




(本当に、たまに…だけど)






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