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※日記ログ



がやがやといつものように食堂は生徒で溢れかえっている。
その一角で、偶然集まったのか同室同士の三組が、食事も終えて各々残りの昼休みを過ごしていた。

「あっ、そうだ。ねえマサ、那月、課題もってきてるよね?」

那月の持ってきた手作りのお菓子を食べながら――しかし食べているのは那月とレンだけだが――音也は思い付いたようにカバンからペンと五線譜を取り出した。
それに反応した翔が未だ何も書かれていない五線譜に目を向けた。

「なんだ?作詞かなんかの課題か?」
「そうなんだよー、俺たち三人一組でさ、課題曲に歌詞つけないといけなくて」
「だからイッキたちカバン持ってきてたんだね」

たしか同じような課題を出すからと事前に龍也先生が言っていたのを翔は思い出した。ついさっき、今日のHRでの話だ。
同じ曲、メロディであってもその捉え方によって、グループによって歌詞が出来るというのは中々に楽しそうだ。
翔が知っている曲は、替え歌はあれど一つの曲に一つの歌詞だ。
一体どんな種類の歌詞が出てくるのだろうか。

「へえ、面白そうだね」
「ですよねえ。でも三人で考えると、意外と難しいんですよお」
「歌詞というのは所謂詞ですからね。複数人で詞を作るというのは自分の考えが通るとも限りませんん。しかし、やりかたによりますが違う発見も出来るでしょう」
「そうなんだよねー。ストーリーっぽくしようか、言葉を並べて…なんだっけ、いん?を踏んだりとかも考えないと」

そうこうしているうちに那月もカバンからペンと五線譜を取り出して早々にはしっこに可愛らしい落書きをしていた。
それを見た音也は那月の描いた小さなひよこの横に音也曰くおんぷくんを描きたす。

その様子に真面目にする気は今はなさそうですね、とトキヤがため息を付いたとき、先程からカバンの中身を見ていた真斗がぼそりと呟いた。

「あかん、筆箱教室に忘れてもうたわ」
「………え、」

いきなり耳に入った関西独特のイントネーションに、レン以外の四人が真斗のほうへ顔を向けた。

「すまない、四ノ宮、ペンを貸してもらいたいのだが――どうしたみんなして呆けた顔をして」
「え、あれ?マサってもしかして関西出身?」
「そうだが…」

それがどうかしたのか、とでも言いたげな真斗にレンがなれた様子で口を開いた。

「聖川、お前京都弁出てたよ」
「…ああ、そうか。極力標準語で喋っているつもりだが、いかんな。うっかり出てしまったようだ」

実際、真斗の実家は確かに京都なのだが聖川を背負っていた父や真斗含めた家族らは基本的には標準語での会話だった。
なので同じ京都出身の都民よりは京都弁の使う頻度は少なかったのだが、やはり学校などでは周りが京都弁なためか彼らと会話するときは京都弁である。

「へえ、トキヤもさ、方言喋ると凄いけど京都弁ってなんかいいね」
「そうだろうか」
「俺も名古屋だしやっぱ方言使うけど、那月は北海道だよな。俺お前の方言聞いたことないぞ」
「僕は…小さい頃フランスにいましたし、北海道といってもコンクールなんかでよくあちこちいってましたからあんまり訛ってないですねえ」

みんなの話を聞いていたレンが思い付いたように言葉を発した。

「オレと…イッキもかな、方言なんて使わないから興味あるよね。ちょっと聞いてみたいし今日1日方言で喋るってのはどうだい?」
「いいねーそれ、俺賛成!」
「お断りします」

即座に却下したトキヤに翔が苦笑したのを見ながら真斗はふ、て柔らかく笑った。

「そんなん言わんといてなあ一ノ瀬。折角やし、俺もみんなの方言聞いてみたい思っててん」

いつもの真面目な固い話し方の真斗に柔らかく言われては毒気が抜けたのか、トキヤは小さな声で「…今だけったい」と諦めたように呟いた。





Moderato
(そんないつもの日常)



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