-蝋燭の灯火-
微かな蝋燭の灯火に照らされる彼は美しかった。
規則正しく胸が上下しているところを見ると、今日は眠れたようだ。
もしかしたら、夜中にあの悪夢に苛まれるのを拒絶して目を覚ますかもしれないが、今日は大丈夫そうだ。
読み終わった本を閉じる。
彼が、エリオットが穏やかに眠れているのだから邪魔をしたくない。から、蝋燭の火を消そうと思ったのだけど。
「………」
あまりにもきれいだったから。
だから、ずっと見ていたくて。
いつも寄っている眉間のシワはなくなっていて、なんだか幼く感じる。
いつもこうすれば可愛いのに。
まぁ、いつも可愛いけれど。
僕はベッドに近づいて薄く空いている唇に人差し指で軽く触れてみた。
無防備で無垢な寝顔。
なのに妖艶に見えるのは蝋燭の火のせいだろうか。
僕だけ、僕だけしかしらない顔。
誰にも見せちゃ駄目だよ。
こんな可愛い顔。
火がゆらゆら揺れて、それに合わせて僕の影も揺れる。
彼の唇に自分の唇を重ねる。
意外と弾力があるんだなぁなんて、場違いなことを思う。
「…ん…、…」
エリオットが身じろぎをする。
起きたかな。
起こしちゃったかな。
空色の瞳がまぶたから覗く。
キスしたの、ばれたかな。
まぁ、でも、それでもいいや。
だけど、エリオットを起こしてしまったことは後悔した。
悪夢の前に僕が起こしちゃった。
「ごめん、起こし―、」
でもすぐに瞳を閉じて、眠りの世界に入ったようだ。
僕はすぐに寝てしまった安堵と、起こしてしまったことに後悔を感じたけれど、想いが伝わっていないことを残念にも感じた。
でも、これでよかったのだ。
彼を悩ませるよりはずっと。
「ごめん、エリオット…愛してるよ」
こんな時にしか言えない台詞を、小声で呟く。
僕はまだ子供だけれど、幼稚な愛なんかじゃなくて。
でも大人みたいに割り切れなくて。
だから、こんなに苦しいのだろうか。
「…、リー…オ…」
寝言で僕の名前を呼ぶだけで、どんだけ僕が嬉しいか、わからないだろうね。
いいんだ、それで。
だから僕は君が好きなんだ。
蝋燭の火を息を吹き掛けて消す。
おやすみ、エリオット
愛しい貴方は、私の甘美な苦悩を知らない。
(あぁ、さっき読んだ本の内容、
思い出せなくなっちゃった)
(110611)