※8歳くらい
朝からグリーンの家に遊びにきてごろごろしてたらいつの間にか夕方になっていた。外は雨で、ずっと暗かったからこんな時間になっていたのはわからなかった。
「うわ…すげー雨」
「…… ……」
「お前どーする?」
二人で外を眺めていたけど、雨のせいで隣の家さえぼやけていた。傘は持っていたけどこのまま帰ると確実にびしょ濡れだ。こんなに寒いのに。
ガチャ、とグリーンの部屋のドアが開いた。振り向くと、美味しそうなご飯の匂いとナナミさんが入ってきた。
「レッドくん、今日は泊まっていく?」
昔から一緒だけどグリーンの家は近いがゆえに遅くなってもすぐ帰れるため、実は泊まったことがない。
グリーンを見ると嬉しそうに「泊まっていけ」という顔をしていた。
じゃあ、とナナミさんに頷いたらナナミさんも嬉しそうだった。
「レッドくんのお母さんに電話しておくね。グリーン、ご飯出来てるからお皿お願い」
「わかった!レッド、行くぞ」
言うが早いかグリーンは階段を駆け降りていった。その後を追って自分もパタパタと降りていく。
リビングに入ると、手慣れた手つきでグリーンがテーブルに皿を並べていた。
「レッドは座ってていいからな」
その言葉に甘えて椅子に座る。
いい匂いがする。昼ご飯もご馳走になったから、明日にでもお母さんにお菓子持って行けって言われるだろうか。
ナナミさんも電話が終わったのか降りてきて食卓にご飯が並んだ。
「「いただきます」」
「…レッド」
「……いただきます」
他愛ない話を(主にグリーンが)しながら見た目通り美味しいご飯食べる。
テレビがマサラタウン近くのポケモン特集をしていて、それからはポケモンの話になった。
「おれあんまり虫ポケ好きじゃねーんだよなあ」
「…近くには鳥ポケモンばっかり」
「あら、虫ポケモンも可愛いのいるわよ」
そんなことを話ながらグリーンがご飯を食べ終わりそうだったので慌ててかきこんだ。
「ごちそうさま!」
「…ごちそうさま」
「皿は置いてていいからね」
ナナミさんはそう言ってたがグリーンがキッチンに片付けるのを見て自分もそうした。
「あ、グリーン、そういえばおじいちゃんから、はい」
片付けが終わって二人でリビングに戻るとグリーンに薄茶色の封筒のような袋に入った本が渡された。
ポケモンの本だと思う。多分間違ってない。グリーンも博士もナナミさんも、皆ポケモンが好きだから。もちろん、僕も。
「明日おじいちゃんにお礼言うのよ」
「わかった、レッド部屋いこうぜ!」
またグリーンは言い終わる前に階段を昇っていった。今日はなんだか凄く機嫌がいいらしい。
グリーンの部屋に行くともう既に彼はあの茶封筒のような袋から本を取り出していた。
本の表紙からしてやはりポケモンの本だったなと予想があたり少しだけうれしくなったが、今のグリーンのうれしそうな顔には叶わないだろう。
『かわいいポケモン』というタイトルの本はその名のとおりかわいらしい、著者の偏見も入っていたが大半はかわいい、と思えるポケモンの写真と、僕達にもわかる簡単な説明が書いてあった。
二人して覗きこみながらポケモンたちを見ていた。
「なあ、こん中だったらどのポケモンが好き?」
「…僕は、ピカチュウ」
黄色の体に、ピンと立った耳の先は黒く、頬っぺたは赤いでんきねずみポケモンに実はさっきから心を奪われていた。
でんきねずみというからには電気ポケモンなのだろう。
「グリーンは」
「俺は…これ!イーブイ!」
グリーンが指さしたイーブイは、茶色のもふもふの毛が触り心地良さそうな、ぱっと見子犬みたいな感じだった。
「最初のポケモンは…ピカチュウがいいな」
「俺もイーブイがいいけど、この二匹あんまり見つからないみたいだ」
どうやらこの種類は数が少ないらしく、そしてあまり人前にでないらしい。イーブイに至っては生息地さえ確定していない。
「明日じーさんに聞いてみるか」
「…うん。あ、」
「ん?姉さんが呼んでるな」
本を置き階段を駆ける僕らは後に自分が選んだポケモンと旅をすることをまだ知らない。
僕はピカチュウと、グリーンはイーブイと。
そして僕らは幼なじみからライバルになることも、このときはまだ−−−−
(110610)